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魚と両生類の間 – 現在生きている魚と比較して

私は魚と両生類の間でどのような進化が起きたのかを研究しているのだが、私と同じような興味を抱いている人間は一般の人にも多く、度々「魚の手足の起源!」「両生類に似た魚!」みたいな話がニュースサイトに取り上げられるたびにTwitterなどで少し話題になったりする。

最近だとNatureに掲載された”指の起源”が記憶に新しい
Cloutier, R., Clement, A. M., Lee, M. S., Noël, R., Béchard, I., Roy, V., & Long, J. A. (2020). Elpistostege and the origin of the vertebrate hand. Nature579(7800), 549-554.

他には今日ニュースサイト「ナゾロジー」に取り上げられた魚の論文も現在進行系で話題になっている。(こちらの記事には両生類との関係性は触れていないが)
Crawford, C. H., Randall, Z. S., Hart, P. B., Page, L. M., Chakrabarty, P., Suvarnaraksha, A., & Flammang, B. E. (2020). Skeletal and muscular pelvic morphology of hillstream loaches (Cypriniformes: Balitoridae). Journal of Morphology.

なんにせよ、「魚と両生類の間」のミッシング・リンクについて人々は進化悠久の歴史に思いを馳せているのである。

しかし時として「魚から両生類が生じた」という大雑把な知識から誤解や齟齬が生じたりする。

そういうのを見るたびに研究者としてはすごくモヤモヤした気持ちを抱かざるを得ないため、この記事に書き留めることで消化する。

Credit: Zina Deretsky, National Science Foundation

現世のほとんどの魚は両生類の直接の祖先ではない

少し進化生物学をかじったことがある人間ならば、「魚から両生類に進化した」というのを耳にしたことがあるだろう。

実際、それは間違いではない。しかし現在を生きる我々にとってそれはある種の誤解を生む。我々が普段釣ったり食ったり飼育したりしているほとんどの魚は両生類の直接の祖先ではないのだ。

魚がまずどのようにして生じてきたかを現世の魚(現在生きている魚)をもって説明すると以下のようになる。

#ヤツメウナギはウナギではない #ヌタウナギはウナギではない

つまるところ、我々陸上脊椎動物の祖先、すなわち両生類の祖先となる魚は「肉鰭類」に属する魚だったわけだ。

肉鰭類と条鰭類というのはシルル紀、つまり約4億年以上前に分岐したと言われている。その肉鰭類と条鰭類というのもサメなどとの共通祖先から生じた硬骨魚類の共通祖先から分岐したことになる。

かんたんに言ってしまうと

サメなどの軟骨魚類との共通祖先から硬骨魚類が生じ、その硬骨魚類の祖先から条鰭類(ほとんどの魚)と肉鰭類(ハイギョやシーラカンスなど両生類の祖先)がうまれた

ということになる

Guiyu oneiros という最古の硬骨魚類 (© N. Tamura)

なお、現在条鰭類と肉鰭類どちらにも属さない硬骨魚類はすべて絶滅しており残っていない。

条鰭類と肉鰭類の違いは簡単に言ってしまえばその「胸鰭(手)」の構造である。肉鰭類はその名の通りしっかりと肉づいたヒレを持っていたグループである。対して条鰭類は食卓の魚を見てもらえばわかるがピラピラなヒレを持つ。

さて、約4億年前に分かれた条鰭類と肉鰭類だが、その後全く別の進化を遂げていった。

条鰭類は現在においてほとんどの水域に進出し、地球上の魚のほとんどを占めるまでに拡大していった。対して肉鰭類はその特殊な「胸鰭」を発達させていき、デボン紀の終わり頃には陸上へと進出していった。そして今現在肉鰭類の生き残りは2種のシーラカンスと6種のハイギョだけである。なんとも寂しい。

シーラカンス(アクアマリンふくしま)

話題になる「歩く魚」系はほぼ全て条鰭類の魚

ここまで長い前置きとなったが、実際陸上へと進出していったグループは「肉鰭類」に属する魚たちであり、陸上へ上がる何千万年よりも前に分かれた条鰭類ではない。況してやサメなどではなかった。

では「歩く魚」であったり、「陸でも生活できるような魚」(例えばハゼなど)はどうなのか? という話であるが、ああいう魚はほぼ例外なく条鰭類に属する魚であり、両生類の祖先ではない

ヨダレカケ(NIFRELで撮影)

こうした「陸上適応」をしている魚というのは、一旦は水中に完全適応した祖先から再び二次的に陸上へと適応していったという進化をたどっている。

例えば、肉鰭類に属する魚であるハイギョはその名の通り肺を持ち、肺呼吸することが可能だ。シーラカンスは深海に住むために肺呼吸はせず、肺自体も脂で満たされているが存在はする。こうした肺をその「陸上に適応した」という魚は基本的に持たない。というのも、一度その肺を「うきぶくろ」として転用して失ってしまったためだ。

ただ、「収斂的な進化」が起きている可能性は否定できない。収斂とは、全く独立な系統において似たような形質が生じることを言う。この場合だと、「歩く手足」に収斂的な進化が起きた可能性が考えられる。

条鰭類の中でも最も古代の陸上適応形質を残す魚

条鰭類という大きなくくりにおいての話を繰り広げてきた。

両生類へと繋がる陸上適応形質は条鰭類にはなかったのか? と問われれは答えはNOだ

様々な形質、遺伝子などの解析から、陸上適応形質は肉鰭類と条鰭類が分かれる前の共通祖先の段階である程度獲得されていたことが示唆されている。

例えば肺などがその一例で、肉鰭類に存在する肺と同様なものが条鰭類の中でも最も古い系統であるポリプテルスの仲間に存在する。ポリプテルスは今でもその肺を使って肺呼吸をすることが可能だ。(「ポリプテルスは肺呼吸ができないと溺れる!」という話を度々目にするが、筆者が試した限りでは死んだりしない)

ポリプテルスについては色々と記事を書いているのでそちらを参照していただきたい。

関連記事:
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ポリプテルスを陸上で飼育する方法
魚が陸に上がるとき 〜最初は口で空気を吸わなかった?〜

なにはともあれ、条鰭類の古い系統群にも一部そうした「陸上適応形質」を残しているものがあるということだ。

さいごに

度々誤解が生じる「魚から両生類への進化」だが、

両生類は肉鰭類に属する魚から進化していった
現世のほとんどの魚は条鰭類に属し、一部陸上適応形質を持つものの、ほとんどは一度水中に完全適応しており、そこからさらに二次的に陸上適応形質を獲得した魚がいる

という2点を抑えておけば概ね間違いはないだろう。

おしまい