2022/02/03 追記: 2023年度版も22年度から変更されていない。
本日2021年2月12日、日本学術振興会特別研究員DCの募集要項が出た。いわゆる「DC1」「DC2」の申請書の形式(フォーマット)が大幅に変更されている。
DC1に出す今年はじめての修士1年の学生は知らないと思うが、実は昨年度も結構フォーマットが変更されており、これまでの対策が微妙に使えないなどの問題があった。
今回はそんな昨年度のフォーマットとどう変更があったのかを対比した上で対策がどのようなものか少しだけ考えてみようと思う。
現在までの研究状況が消滅
今回、現在までの研究状況という「自分が過去にこれまで研究してきた内容を紹介する」という欄がまるごと消滅した。まあこれには色々問題点があることが指摘されており、研究室にいつ配属されたのか、修士で研究室を移ってるか、そして今回一番影響が大きかったのがコロナ禍により研究ができなかったという問題点からこうしたフォーマットの大幅変更が起きたと推測できる。
そして見てもらえるとわかるが、これまでは「枠」が存在してその中に文字やら図やらを押し込まねばならなかった。Wordで書いている人は特に面倒くさく、ちょっと図がズレると文字もズレて大変忌々しい思いをした。
それが今回枠ごと綺麗サッパリ取り払われてしまった。そして内容についてもかなり自由度が増している。
まあそれはさておき、2022年度(令和4年度)はいわゆる昨年度までの「これからの研究計画の(1)研究の背景」に相当するものがこの(1)研究の位置づけである。
対策
自分が行っている、あるいは計画している研究の位置づけをはっきりとさせる。
- その分野あるいはその研究の系譜はどのようなものか
- これまで「なにが」「どこまで」明らかにされているか
- それまでの研究では「何が問題だったか」「何が足りなかったか」
- その問題点らに対して自分はどういう立ち位置で研究するのか
普段からこれは意識しておくべき項目で、「ただ先生にこうこうこうすると良いと言われたからやった」「与えられた研究テーマがこうだった」なんていう甘い考えで深く考えたことがないとすぐにボロが出る。
自分が何のために研究をやっているのか、この研究に対して国の税金を3年で延べ約1,000万円投じる価値がどこにあるのか、学術界(あるいは産業界)にどういう点から寄与できるのか、そうしたことを日頃から考えて研究するべきであると私は考えている。
研究計画は更に縮小
昨年度は研究計画の欄が削減された。しかし今年度のものはまたさらに1ページ近く欄が削減されている。
しかし基本的に書くことは同じである。
対策
重要な点は以下の通り。
- 概念図(模式図・イメージ図)を描け
- (1)で書いた「問題点」や「どこまで明らかにされているのか」を踏まえる
- 踏まえた上で自分はどこまで明らかにするのかを具体的に書く
- 先行研究と比較してどこが新しく、どういう点でインパクトがあるのかを読者視点で書く
1. 概念図を描け
特に1は最重要。図がないと見る気も起きない。審査員は大量の申請書を見ながら通常業務や雑務や学生の世話やら研究やらを進めていかねばならない。(一部は)自分以外に審査員をやっていることをバラしてはいけないので愚痴も言えない。
だったらまず目につくイラストがある申請書から読んでいくだろう。
私は相当にイラストを描くのに時間をかけた。いらすとやなどのフリー素材は正直見栄えが悪いので使うべきではないだろう。描き下ろしのイラストを使用した。
動物のイラストは面倒くさくても写真を自分で撮って、Illustratorで開いてベクタに変換し、トレース、修正、着色を行った上で白黒でも見やすいように色を調整をかける等イラスト1つとっても非常に時間をかけて作成した。
今回わざわざ「図表」から「概念図」に変えたのは、単純な実験データ(例えばin situ や免疫染色の写真)なんかを貼り付けるのではなくそこからもっと高次の研究の流れや概略がわかるような図を作れという意図が汲み取れる。正直貼ったところでなんの蛍光画像なのか一瞬で分かる人は多くはないだろう。
Cell系列のArticleのGraphical Abstructなどが参考になるだろう。
2, 3, 4. 先行研究との線引
次に先行研究を踏まえた上でどう自分の研究は新しく、そして独創的な観点から研究しているのかを述べる。
よくあるのが「XXについてはまだわかっていない。そこで本研究はXXについて研究した」構文。「ビンチョウマグロを食べたウーパールーパーのうんちの色についてはまだわかっていない。そこで本研究では~」とかテキトーなことを入れても成り立つ。良くない。うんちの色がわかったところで誰も嬉しくないからだ。ちなみに赤っぽいうんちが出る。
「なぜわかっていないのか」「なぜわかっていないとどういう点でまずいのか」「自分が先行研究とはどういった点で違うのか」「これまでわかっていなかったそれを明らかにすることでどういった学術界・産業界への寄与が考えられるか」をはっきり述べる必要がある。
ここが研究計画、そして研究自体で最も大事なところだと私は思っている。
これをしっかり書かないと「コイツはなんでこの研究をしているんだ?」「ただ教員の言いなりで研究してるだけで何も考えてないんじゃないか?」と思われるだろう。
法令等への遵守
なんか倍くらいに増えているが余白に困ったのだろうか。
そういえば、最近はABS周りでうるさく言われることが多くなった。海外の生物・遺伝資源を用いる際はそれについて許可を取ることが求められるようになったため、それについて書いておくとよいだろう。
ABSに関しては遺伝研のサイトでよくまとめられている。
私は「該当しない~!」って書いていたが採用後に「ABS等の証明書の取得を云々」と通達が来た。
もちろん遺伝子組み換え体を扱う場合は学内・研究所内の講習会の番号等を記すべきである。論文と同じ。
研究遂行能力
ここから三ページが最難関だろう。去年から大幅にフォーマットの変更が行われている。
就活のESみたい。業績のいる就活。
「まあなんでもかける! 盛れ盛れ」みたいなのも結構だが、根拠のないアピールは正直虚しい。
コロナ禍で研究が思うように進まなかったことは皆(おそらく)同じなので、書けるものがあれば漏らさず書いていこう。またこれは去年からも言われているが、「業績リスト」ではなくなっている。文章のように自分のアピールを行い、それの根拠を引用しつつ、「参考文献」として最後に付すのが適切かと思っている。
書く業績がマジでないとここはキツイ。今年は2ページもこれがあるので何もない人、何もやってこなかった人を完全に弾き飛ばすつもりが伝わってくる。たとえ研究で業績をあげていなくとも、例えば学友と勉強会を開催したとか、ホゲホゲという科目で表彰されたとか、研究室内では留学生とともに英語でやり取りをしながら研究を遂行している等々色々とアピールできる要素はあるのではないかと思う。
更にこれまでの自分のアピールを踏まえた上で、足りない点、もっと伸ばせる点を具体的に分析して書く必要がある。これは就活をやったことがある人間は有利かもしれない。
目指す研究者像
これもまた微妙に変わった。
「目指す研究者像」を明確に示した上で、自分に今何が足りていないか、そして博士号を取得するまでの間に何を身につけるべきかをはっきり具体的に書く必要がある。
それに加え、これまで書いてきた研究計画とどう関わってくるのかを絡めて書く必要がある。キッツいなこれ。
例えば「学際的な研究を行い、多分野に渡る専門家を繋ぐような研究者になりたい」と書いたとすると、今回の研究計画はそれに沿うようなものでなければならない。逆に言えば、自分の研究の強みを見出すことができれば、それを踏まえてどのようにステップアップの材料となるかを論じることができるだろう。
さいごに
変わりすぎて正直びっくりした学振DC申請書。これまでのノウハウ等を潰そうとしているのかもしれない。しかしよくよく見れば本質的な部分はしっかりと残っている。これから提出までの約3ヶ月の間に十分に練って何度も他人に添削してもらい分野外の人間が読んでも十分に内容が理解できるものに仕上げよう。
日本学術振興会特別研究員 こちらで要項とかをきちんと読んだ上で書く。
また、大幅にフォーマットが変更になったがそれに対応すべく新しい「学振青本」では現在加筆修正が行われている模様。
2021/03/24 追記: この本もだいぶ加筆修正が行われていた。私の記事も紹介されていた。