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博士後期課程への支援が令和3年度から”桁違いに”増える話

今日は朝から読売新聞の以下の記事でもちきりだった。

【独自】政府、博士課程1000人に年230万円支援へ…先進分野の研究支援

政府は、博士課程に進学する大学院生に対し、支援を拡充する方針を固めた。先進分野を専攻する院生約1000人に、生活費や研究費として1人あたり年230万円程度を支給する。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20201215-OYT1T50084/

前回、学振の記事の最後に「年180万円程度を上限に1000人程度を対象に給付奨学金を~」と書いてあった通り、前回出た話よりも増額した上で枠はそのままという単純に話が良い方向に進んでいることがわかる。

先進分野を専攻する大学院生

さて、ここで批判の的となっていたのが先の引用にもある通り「先進分野を専攻する院生約1000人に」の部分である。

言わずもがなであるが、研究とは常に先進的でなければならない。じゃあ「先進分野とは何を持って先進分野と定めるのか?」ということになる。引用元の記事にはこう書かれている。

支援対象は、情報技術や人工知能、量子技術、物質・材料の成長分野で延べ30大学程度、人文・社会科学を含む革新性が期待できる分野で延べ25大学程度を想定している。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20201215-OYT1T50084/

どう1000人を分配するのかは不明だが、おそらくは前半部、「成長分野」に重点を置きたいところであろう。人文社会科学も含まれているが、「革新性」が必要だとか。なんとなく何が言いたいのかは想像がつく。

「”先進分野”だけで増やすのではなく、単純にこの学振特別研究員の枠を増やせばいい」という意見がチラホラ見られた。

ただ問題背景として「そもそも博士人材の需要が日本では低い」というのが存在する。いわゆる「アカデミック」に染まって自分の狭い分野でしか能力を発揮できないから採用しないという雰囲気が存在するからだ。つまるところ、博士号取得人材プールと民間企業の間の行き来自体が少ないというのが従来の問題点であった。

博士号取得後、アカデミアに残れる人間は限られており、最近は大学も少子化などの煽りを受けてかポストの補充を行わないところが多くなってきている。そうした中で博士人材ばかり増やしたところで就職先がない、そう、「ポスドク一万人計画」の悪夢再来である。

さて、ここで学振特別研究員の枠を2倍にしたところで、博士号取得後のキャリアパスの流れの何かが変わるだろうか? おそらく今回この院生支援の政策案を練った人間の狙いはそこにあったのだと思われる。

今回の記事にある支援策には条件があり、大学側に博士号取得後の院生の就職支援案を提出させるとある。つまり各大学に企業と博士人材の流れを作らせようというものである。一度就職先としての「出口」の流れを作ってしまえばあとは学振特別研究員の枠を増やすなりなんなりして学生数を増やせばいい。出口を作らずに学生数自体を増やすことになりかねなかったから今回はそうしたのだ、と解釈することができる。ウーン。なるほど。

それで今回の「先進分野」に話は戻る。当然だが民間企業は自社の利益を追求する。となるときに必要な人材は自分たちに利益をもたらすかどうかだ。例えば新素材を作っている会社に「ウーパールーパーが吐き出す呼気の酸素濃度の割合に詳しい人材」が必要かというと必要ではないだろう。欲しいのは先に挙がったような「成長分野」の学生だろう。

そうしたときに「増やしておきたい」のがそうした学生になる、ということだ。大学側が企業に売り込みに行くときに「目玉」となる商品を推していき、博士人材の流通経路を社会との間に確保した上でその博士人材を広く増やしていく――今回はそのさきがけであるということであろう。

以上が私の解釈。

追記: 支援策はこれだけではない

さて、今回出ている支援策はこれだけではない。

1000人だけではなく、最終的に15,000人の支援を目指している、というか、話がまとまったということである。これマジ? さっきまでの話と秒で矛盾する考察になったんだけども。

リサーチアシスタントで800人の生活費相当、”質の高い”学生6,000人が生活費相当のお金をもらえる、という話である。まあどうやって質の高さを見極めるのか、結局は学振のような形で審査することになるんじゃないのかとは思ったりもする。

この資料から読み取れる問題点は他にある。

「自由で挑戦的・融合的な研究を実施する博士課程学生が所属する大学」を支援するとあるのだ。つまるところ、これは大学支援策の一環でもあるということだ。大学側は支援を受けるために「自由で挑戦的・融合的な研究を実施させなければならない」。うーん、国としては大学側に努力をして欲しいとかそんな感じなのかもしれないが、これはこれで大学側の負担が大きくなってしまうのではないかという問題点が存在する。

これの個人版、「自由で挑戦的・融合的な研究を実施する博士課程学生に対する支援策」が学振特別研究員に相当するのであろう。そんな感じのフォーマットに変わってきている。

なんであれ、これからはまた博士後期課程の学生数が増えていくんじゃないだろうか。一時期よりも半分にまで減ったと言われている進学数だが、これは先進国と比べると大きく遅れを取っている。基盤の底上げとして院生の数を増やすのはいいが、先程も述べた通り就職先が無い限り博士後期課程敬遠が続くだろう。今回の政策で良い方向に進むことを願っている。

「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」の目標値である約 15,000 人への支援の達成を目指します。また、高等教育、科学技術及び産業政策の全体を見渡して、RA(リサーチ・アシスタント)支援の促進など総合的な施策を講ずることにより、大学院生への一貫した切れ目のない支援をしっかりと行います。
ぜひともじっくりと腰を据えて、思う存分研究に打ち込んでください。

https://www.mext.go.jp/content/20201215-mxt_jyohoka01-000011639_01.pdf

更に追記: 年額240万+研究費もある模様

例の制度、年額240万に加えて研究費50万円も支給される模様。

ここまできたらもはや学振DCとの差は研究費の額面の差くらいで、逆に言えばこれがもし「奨学金」の名を冠しているのであれば学振とは異なり非課税となる。つまり、手取りで言うところ、学振よりも受け取れる額は高くなるのだ。

学振DCとの重複受給に関してはまだ情報が出ていないが、おそらく不可能であると思われる。まあ流石にもらいすぎって批判が出るし、広く救済をすることが目的であるはずなので。

2021/02/26 追記:

これは研究費も含めて200-250万円ということになった。詳しくはこちらの記事を参照

「学振倍増」とは何だったのか

2020/12/28 追記

某新聞に「学振倍増」との話があり一時期話題となったが、結局今回の話で立ち消えてしまった。ただ根も葉もない噂話だったかというとそうではなく、今回のこの予算案に基づいたものであったと推測できる。

いさ進一氏がYoutubeにアップロードしていた動画の中で「学振をもらっている人が現在約7,000人、それを今回は倍増、8,000人を更に上乗せしましょう」との旨を述べている。

学振倍増にしなかった理由としてはポジション・キャリアパスプラン開拓のための新しい枠組みを制度化したいという狙いがあったようだ。

ただ、大学への負担はどうしても課すようで、この流れがもし続くようであれば大学側はその負担によって学費値上げに踏み切り、某工大のように10万円更に年額上げるような暴挙に出るような大学が今後出てこないとは言い切れないだろう

また、財政的に厳しいような大学ではそもそもこの支援制度を大学として採択できないというところも出てくるだろう。すると「博士課程進学するなら支援がある首都圏の大学院にしよう」と言って首都圏への高度教育人材の集中が起き、地方大学からのキャリアパスやイノベーションはどんどん乏しくなっていくであろう。