ハイギョは最も両生類に近い、現在生きている魚である。
「生きた化石」とも呼ばれ、またその名の通り肺を持つ魚としても知られている。
肺を持つ、ということは空気呼吸が可能であり、陸上で生活できることが知られている。
実際、アフリカや南アメリカに生息するハイギョは陸上で生き延びることができ、乾季になると土を掘って繭を作って乾眠(かんみん)することが知られている。眠りにつくことで代謝を抑え、再び水が現れたときに土から這い出てくるのだ。
ハイギョは脊椎動物の中で最大のゲノムを持つことが知られており、最近ではその巨大なゲノムがハイギョ二種で解読されるなど研究業界でも脚光を浴びている。
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さて、今回は最近Science Advancesに掲載されたハイギョの繭に関する論文を紹介する。
Heimroth, R. D., Casadei, E., Benedicenti, O., Amemiya, C. T., Muñoz, P., & Salinas, I. (2021). The lungfish cocoon is a living tissue with antimicrobial functions. Science advances, 7(47), eabj0829.
ハイギョは繭を作って乾眠する
先述の通り、ハイギョは陸上環境に置かれると約1週間ほどで繭を作り始め、乾眠する。
ここで著者が着目したのが「顆粒球」である。顆粒球とは白血球の1種で、自然免疫系の役割の担う細胞である。以前から顆粒球がハイギョの腸や腎臓などに沈着していることが知られていた(Jordan and Speidel, 1931)。そして著者らは以前の研究で陸上飼育したハイギョの表皮・真皮にその顆粒層が蓄積されていることを確認している。
つまり、陸上環境にさらされることによってハイギョは顆粒球を皮膚などに大量に沈着させることで免疫系を高めている可能性が示唆されているということになる。
ハイギョの繭は生きた細胞
そうした中で著者らは注意深く組織切片を確認していたところ、どうやら均一に皮膚が変化しているわけではない、つまり場所によって異なる変化を示していることが明らかになった。顆粒球が表皮層へと浸潤していく様子が見られる部位があったほか、真皮・表皮の両方で顆粒球があふれるように見える箇所も存在した。
それをまとめると下の図のA-Bあたりの様子になる。血流に乗って顆粒球が運ばれて真皮・表皮層へと到達、表皮層へと移動する様子が観察された。
また、著者らはハイギョが乾眠するときに作る「繭」に免疫機能があるのではないかと仮説を立てた。乾眠中のハイギョは動かず、粘液分泌も停止するため外部からの病原体などに対して弱くなってしまうのではないかという考えからだ。
著者らはハイギョの繭についても組織切片を作り観察を行った。その結果、ハイギョの繭はいわゆる「虫が作るような繭」ではなく、「生きた細胞」であることが初めて明らかになった。繭の中には血管まで存在していたということも明らかになった。
両生類などにも砂漠に生息するようなカエルでは繭を作って乾眠する種がある。こうした種では角化細胞を作り出すことで繭を作っている。つまり、死んだ細胞からなるベールを身にまとっている。対してハイギョでは生きた細胞が繭を構成しており、顆粒球を多く含み免疫系の機能が働いているということになる(上図C-D)。
細菌耐性があること、ハイギョの皮膚に細菌がないことも示しており、これらが機能的であるということも示している。
最後に
ハイギョは古くからその特殊な生態に着目した研究がなされてきたが、未だこうした基本的なことについてもわかっていないことが多く残されている。
ゲノムが解読されたこともあり、今後こうした研究がどんどん進んでいくことを期待している。
参考文献
- Heimroth, R. D., Casadei, E., Benedicenti, O., Amemiya, C. T., Muñoz, P., & Salinas, I. (2021). The lungfish cocoon is a living tissue with antimicrobial functions. Science advances, 7(47), eabj0829.
- Heimroth, R. D., Casadei, E., & Salinas, I. (2018). Effects of experimental Terrestrialization on the skin Mucus Proteome of african lungfish (Protopterus dolloi). Frontiers in immunology, 9, 1259.
- H. E. Jordan, C. C. Speidel, Blood formation in the African lungfish, under normal conditions and under conditions of prolonged estivation and recovery. J. Morphol. 51, 319–371 (1931).