今回の内容は『ポリプテルスやウナギなどの一部の魚における嗅覚器の構造』だ.具体的には鼻管および鼻腔内の水流機構について軽く触れる.
鼻管について
ポリプテルスやウナギを飼っている人,もしくは水族館でウツボとかが好きなマニアックな人間なら誰しも一度は「あの鼻」がなんであるのか疑問に思ったことがあるはずだ.
あの長く飛び出た鼻は「鼻管」と呼ばれる構造である.
私の知人が水槽のポリプテルスを見るたびに「はなげはなげ」言うが,鼻毛ではない.チューブのような,中空構造を取っており,例えて言うならば象の鼻のほうがよっぽど近いだろう(あれは2つ穴が空いているがポリプテルスは1つの鼻管に1つの穴だ).
ポリプテルスの他にも,ウナギやナイフフィッシュ,果てはウツボまでこの「鼻管」は存在している.古代魚だから,とか系統的に古いから,とか言う理由でこの鼻管が存在しているわけではなさそうだ.
いろいろ探してはいるが,この鼻管の機能自体についてあまり研究はされていないようだ.もしご存知の方がいたら教えて欲しい.
魚の鼻の穴は4つ?
私達は鼻と咽頭が繋がっているが(内鼻孔),魚はごくごく一部,ハイギョ(とヌタウナギ)を除いて鼻と咽頭は繋がっていない.
鼻から”匂いをかぐ”とき我々は肺に空気を吸い込むときに口を塞ぐことでそれを行っているが,魚はそもそも肺を持っていない(事が多い)し,普通水は口から吸ってエラから出す.
では魚はどのように「匂いをかいで」いるのか,ということだが,答えを言うと多くは「自身が泳ぐ,もしくは水の流れによって鼻の中に水を流し込む」ことで匂いを感じている.
もしくは「鰓呼吸の際の顎の動きによって鼻に水をとりこんでいる」ということが知られている.鼻の中がポンプのように伸び縮みすることで水を取り込んだり吐き出したりするようだ.
さらに,魚の鼻の穴は多くは4つあることが知られている.私達は一見2つだが,入り口の2つ,そして出口の2つを合わせれば4つ……つまり魚も同じことで,出入り口合わせて4つ,ということだ.よく観察してみるとわかるが,左右に2つずつ開口している.
ただ実際上記のような機構で水の流れを作っている場合,はっきりとした水の流れを感知することは難しそうである(どちらの穴から入れてどちらの穴から出るという一方通行の水の流れを作り出すのが難しいため).
ちなみにここでは「魚」と一括りに表記しているが,かなり祖先的な魚であるヌタウナギやヤツメウナギは鼻の穴は1つしか存在しない.(これについてはいつかまた後日記事を書く予定)
ポリプテルスの鼻孔も左右に計4つあるのだが,鼻管がない方はなかなか肉眼では見つけにくい.もし死んだら解剖してみると良いのだが,そのときにホルマリンで固定後,エタノールで脱水をかけると組織が収縮して穴が広がって見える.(写真があるにはあるが論文に使用する可能性があるため現在掲載保留)
ポリプテルスでは水の流れを一方通行にする機構が存在
ポリプテルスの鼻は他の魚とは異なり,変わった構造をしているが,中でも変わっているのが「水の流れを作り出す機構」が存在するということだ(Pfeiffer, W. , 1968).
水の吸込口はあのポリプテルスの長い鼻こと「鼻管」から水が吸い込まれるが,それを中の嗅上皮を通って眼の前にある鼻孔から出ていく,というもの.ただこの嗅上皮に水の流れを作り出す機構が存在する.
嗅上皮とは匂いを感じる嗅細胞があり,粘膜に覆われている鼻腔の上皮のことを指す.
ポリプテルスではこの嗅上皮に繊毛が存在し,その繊毛が動くことで水の流れを作り出し,鼻の中の水の流れに方向性をもたせている.
ただ,この繊毛による水の流れはポリプテルス特有のものというわけではなく,ウナギなどの一部の魚においても知られている.
このように流れを作り出すことによってあまり動かないような魚であったとしても外の匂いをどんどん中に取り込んでいくことができる.
さいごに
ということで,ポリプテルスのあの長い鼻の管(鼻管)からどうやって水を取り込んでいっているのか,ということを軽くまとめた.
うなぎやポリプテルスにおいては鼻腔内に存在する繊毛の運動によって水の流れを能動的に作り出し,外の匂いを嗅いでいるということがわかっている.
ポリプテルスの鼻は結構変わった構造をしていたりと,面白いはずなのだがあまり研究はされておらず,これからの研究成果の発表が待たれる.
参考文献
- Pfeiffer, W. (1968). Das Geruchsorgan der Polypteridae (Pisces, Brachiopterygii). Zeitschrift für Morphologie der Tiere, 63(1), 75-110.
- 会田勝美, & 金子豊二 編. (2013). 増補改訂版 魚類生理学の基礎. 恒星社厚生閣 .