魚の陸上化で目が大きくなる?

今から約3億5000万年前、デボン紀の終わり頃に魚が陸上へと進出した。

魚が陸上へと進出するためには様々な準備が必要であった。例えば陸を這うための腕であったり、水の外でも呼吸できるような肺であったり、あるいはリン酸カルシウムからなる重たい鱗を捨てたりする必要があった。

現在、この魚の陸上進出がどのようなフェーズを経て行われたのかは出土するわずかな化石記録から紐解くのが主流である。しかし生物学者の中には「陸上四肢動物に最も近い魚」と言われるハイギョを用いてこの謎に挑んでいる者もいる。

しかし現生のハイギョには大きな欠点があり、陸上で飼育しようものなら繭を作って眠ってしまう「乾眠・夏眠」という能力を持つのだ。そのため、長期の陸上環境が生体にどのような影響を及ぼすのかという実験については明らかにされてこなかった。

しかし近年、Standen らのグループによって「ポリプテルス」という水陸両生の魚を用いた長期陸上飼育による影響を調べた研究が徐々に広がりつつある

これまでStandenらのグループは陸上飼育による「歩き」の変化であったり(Standen et al., 2014)、「エラの形態」の変化(Turko et al., 2019)であったり、最近だと胸鰭の骨格に可塑的な変化が起きたということが示されている(Du et al., 2020)。

新しい研究チームがポリプテルスを陸上飼育

ここ数年は彼らのグループしかポリプテルスを陸に上げていなかったが、ついに別のメキシコの研究グループがこの研究手法に参戦した。

Cuervo-González, R., del Angel, P. S. M., & Covarrubias, L. (2019). Allometric growth and reduced pectoral fin regeneration rate in terrestrialized Polypterus senegalus Crecimiento alométrico y disminución de la capacidad de regeneración de la aleta pectoral en Polypterus senegalus terrestrizados. Hidrobiológica29(3), 155-161. PDF

この研究ではポリプテルスを陸上飼育し、解剖・染色を行ったとのこと。主に胸鰭について透明骨格標本を作って観察を行っているが、「陸上環境が前肢(胸鰭)の切断と再生にどう影響を及ぼすのか」ということに着目したりしている。陸上環境だと再生が水中環境に比べて悪いのだそうだ。

ただ、この論文で私が面白いなと思ったのが「目」の変化である。Fig.1のGを見てほしいのだが(著作権の都合上今回はこの画像を載せられない)、明らかに陸上飼育した個体のほうが目が大きく……というか飛び出ている? ように見える。測ったところ、「直径が21.8±1.04%大きく、瞳孔が16.4±1.29%広い、突出した目を発達させた」とのこと。ワオ。

うーーーん、ただ残念なのが著者らがこの飛び出た目について十分な議論をしていないことである。陸上化と目については結構重要なリンクが存在するので、そこに着目できて議論できていれば良かったのだが。

参考文献リスト

  • Cuervo-González, R., del Angel, P. S. M., & Covarrubias, L. (2019). Allometric growth and reduced pectoral fin regeneration rate in terrestrialized Polypterus senegalus Crecimiento alométrico y disminución de la capacidad de regeneración de la aleta pectoral en Polypterus senegalus terrestrizados. Hidrobiológica29(3), 155-161.
  • Standen, E. M., Du, T. Y., & Larsson, H. C. (2014). Developmental plasticity and the origin of tetrapods. Nature513(7516), 54-58.
  • Turko, A. J., Maini, P., Wright, P. A., & Standen, E. M. (2019). Gill remodelling during terrestrial acclimation in the amphibious fish Polypterus senegalus. Journal of morphology280(3), 329-338.
  • Du, T. Y., & Standen, E. M. (2020). Terrestrial acclimation and exercise lead to bone functional response in Polypterus senegalus pectoral fins. Journal of Experimental Biology223(11).

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です