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シーラカンスは陸に上がったのか?

はじめに

先日の某学祭においてシーラカンスの解説員を勤めていた.時給1000円の交通費なしという流石某工大と言わんばかりの待遇だったが,進化生物学がなかなか社会に直接的な利益をもたらすことが難しい以上,こうした教育的な活動を行って社会貢献をする他ないことを重々承知しているので引き受けた.

すずかけ台キャンパスの博物館にはこんな感じのシーラカンスの模型(レプリカ)が展示されているのだが,一般客には「すごい」「でかい」となかなかに好評であった.

計3体も同じ建物にある

ただパネルをじっくり読むような人でなければ「シーラカンスはでかい魚」で終わりなのが少し悲しかった.

少しだけシーラカンスの特徴を触れておこう

シーラカンスの面白い特徴

シーラカンスは生きた化石と呼ばれるように,非常に古くからその形質を変えずに生きていると言われている.シーラカンス自体はデボン紀の中頃に出現したと言われ,その後F/F境界絶滅などの大量絶滅でも滅びることはなくひっそりと深海で生き続けている.

現在生息しているシーラカンスは2種類いて,南アフリカで1938年に記載されたLatimeria chalumnaeとインドネシアに1997年に見つかったL. menadoensisがいる.見た目の色が違うのだが,ミトコンドリアDNA解析を行った結果,4000万年~3000万年前に分岐したと言われている(Inoue et al., 2005).インド亜大陸の衝突によって分断されたようだ.

シーラカンスは魚類にしては少し珍しく,「卵胎生」の繁殖方式を取る.

卵胎生とはお腹の中で卵を孵化させ,いわゆる“子供”を産む,という繁殖形態のことを指す.一部のサメやグッピーなどはこれと同じ卵胎生である.

約10cmと非常に大きい卵を30個以上体内に持っていた,という報告もあれば,20匹以上の子供が雌の体内から出てきたという報告もある.

出産はだいたい35cmくらいの大きさで出てくるようだ.結構でかい.親がだいたい180cm以上になることを考えるとそんなものかという気もするが.

また,我々が持っているような「肋骨」を持たない.さらに体の骨は軟骨からできている.しかし分厚い鱗を持っており,それによって体を保っているらしい.

シーラカンスは普通の魚と違う”腕”を持つ

シーラカンスの一番特徴的なのはその”腕”にあるだろう.写真をよく見てもらえばわかるが,胸ビレ,腹ビレともに非常に分厚い腕をしている.

我々が普段口にするような魚のヒレと比べてみて欲しい.

例えばこのマツカサウオの胸ビレと比べてみても非常に太いというか,ちょっと腕のように伸びているのがわかると思う.

形態学的にこの2種は大きく異なる分類がされており,シーラカンスは”肉鰭類”,マツカサウオをはじめとするほとんどの魚は”条鰭類”に分類されている.肉鰭類はその名の通り,肉肉しい腕をしている.

ちなみに我々ヒトを含む陸上四肢動物はこの肉鰭類の仲間である(肉鰭綱に属するっていっちゃうと色々ややこしいので,要はシーラカンスやハイギョの仲間から我々が進化してきたという感じ).

このシーラカンスの胸ビレと腹ビレを見ているとだんだん「こいつが陸に上がったんじゃないのか……?」という気持ちになってくる人もいるだろう.

しかし落ち着いて欲しい.陸に上がるには腕だけあっても仕方ない.陸でちょいと生きるだけならハゼだって生きれる.あれは条鰭類に属するが,ぴょんぴょん跳ねて陸を歩く.しかし完全に陸では生きれない.

肺がないからだ.

ハゼも一応皮膚呼吸をすることで陸に適応はしているが,そこから先,水場から離れた生活をするにはどうしても肺が必要だ.

シーラカンスに肺はあったのか?

では肺が陸上に上がるのに必須ならば,シーラカンスには肺はあったのだろうか?

答えはおそらくYES,だ.

現在は中に脂肪が詰まって,浮袋のような働きをしているようだが,肺の痕跡があったことがうかがえる.

昔は原始的な肺を用いて空気呼吸を行っていたのかもしれないが,現在は生息地を深海へと移し,空気呼吸をしなくなっていくうちにその肺を浮袋へと転用したのだろう.

ではシーラカンスは陸に上がったのか?

これについてはおそらくNOではないかと考える.

化石が見つかっていない,と言われればそれまでだが,シーラカンスの仲間というよりはむしろハイギョの仲間が川へと進出し陸上に上がったという方が今の所正しい.

シーラカンスは何かとテレビやなんやらでインパクトがあるせいで「陸上四肢動物の祖先!?」みたいな扱いを受けている.まあ原始的な肉鰭類であるがゆえに間違いでは無いが,どうせ原生種を扱うならハイギョにもっとスポットライトが当たるべきだと考える.

まあシーラカンスでっかいからね,なんか深海に住んでいて神秘的だから.泥に潜って繭に包まれて乾季を過ごすハイギョを私達の祖先というよりかは,神秘的なシーラカンスを祖先っていうほうがウケがいいのかもしれない……

シーラカンスになくてハイギョにあるもの

じゃあここまでシーラカンスdis(disまではしていないが)しておいて何が陸上化に足りなかったんだよ,という話になる.全部挙げることは多分無理なので私が知っている中でも面白いものを取り上げる.

鼻の構造が違う

まずは外見的な特徴として,ハイギョには内鼻孔がある.

両生類も含む陸上四肢動物は基本的にこの「内鼻孔」を持つ.

我々の鼻で例えると早いが,鼻と喉がつながっている.ご飯食べながらくしゃみをすると鼻からご飯や牛乳が出てきたりすることからもわかるだろう.

対してシーラカンスをはじめとする一般的な魚はこの内鼻孔を持たず,外鼻孔のみを持つ.つまり鼻と喉はつながっていない.

初期に陸上へと上がっていったイクチオステガのような動物でも内鼻孔があったことからも,シーラカンスがその陸上四肢動物の直接の祖先であったというよりかはハイギョのほうが近いだろう.

アンモニアの代謝が違う

もう一つ,何度もこのブログで取り上げているが尿素回路の一番最初に重要な「CPS I」をシーラカンスは持っていない,ということである.

CPS I を失った,という可能性は否定できないが,おそらくハイギョの仲間が陸上へと上がる段階で獲得したのではないかと考える.

興味がある人は以下のURLから過去の記事を参照して欲しい.

じゃあ今のハイギョはどんなもの?

現生のハイギョは6種いる.

このアフリカハイギョの一種(Protopterus aethiopicus)も肉鰭類に属するが,見ての通り陸を歩くようなヒレをしていない.鞭のようなヒレを持つ.

しかし,より原始的なハイギョであるとされるオーストラリアハイギョ(Neoceratodus forsteri)はなんか歩けそうな感じのヒレを持つ.

だがこのハイギョは空気呼吸にあまり依存していない.

まとめ

シーラカンスは魚の祖先として原始的な特徴を持つが,シーラカンスが直接陸に上がった,というわけではないだろう.しかし,いわゆる真骨魚類とは異なり,我々陸上四肢動物に近い遺伝子も持っていたりするため,そういう面で研究する価値は十分にある.

ハイギョのほうが陸上四肢動物に近いと散々述べてきたが,シーラカンスは全ゲノムが決定されているのに対して,実はハイギョのゲノムはまだ読まれていない.

なので研究に使う上ではシーラカンスを「陸上四肢動物に近い魚」として扱うのが都合が良かったり…….