CPSIIIの進化の話

クララのCPS I-likeな酵素

前回の記事でCPS(Carbamoyl phosphate synthetase; カルバモイルリン酸シンターゼ)の進化について少しまとめた.

記事中で,


アンモニアを基質とするCPS Iを持つようになったのがハイギョ以降、つまり肉鰭類のうち陸上に上がった/上がる生物種以降


魚が陸に上がるとき~尿素代謝~

と書いていたが,前回も紹介した「Walking Catfishが高アンモニア条件下で尿素を作っている」という論文において,CPS I-like な物質の活性があったということが述べられていた.

実は著者がもっと前に発表した論文が初出らしく,調べていったがどうやら具体的に酵素を同定した,というわけではなくホモジナイトして遠心分離してミトコンドリア画分にその CPS I-like な活性があったということらしい(Nirmalendu Saha et al., 1999).

いやいや,すごいでしょこれ.

このWalking Catfish(以下クララ),空気呼吸ができて雨が降っていると地上を文字通り歩いて(這って)移動するんだけど,そのときにやっぱり問題となるのが「アンモニアをどうするか」っていうこと.

繰り返しになるが,鰓呼吸できるほど大量に周りに水がない環境下ではエラからアンモニアを排出することができず,尿から排出するしかない.しかし尿を排出するには体内の水分を外に排出しなければならず,それだけの水を失ってしまう.毒性が高いため,体内に大量に貯めておくことは難しい.

両生類ではそのような”危機”に対して「アンモニアを尿素に変換して毒性を下げる」という代謝経路を得ることで陸上・水の少ない環境への進出を可能とした.

このオルニチン回路の最初,アンモニアからカルバモイルリン酸への反応を触媒しているCPS Iという酵素は現段階では両生類以降,つまり陸上四肢動物からしか見つかっていない.(ハイギョもCPS Iを持っているが、実際に発現しているのはCPS IIIらしい)

だけどこのクララはCPS Iと同じような働きをもつ酵素を獲得し,アンモニアを代謝しているという.すごい.すごくない?

じゃあこの CPS I-like な酵素はなんなのか?

この CPS I-like の酵素CPS I が条鰭類・肉鰭類の分岐以前に存在して,その後条鰭類では殆どがCPS IIIを失った――というストーリーはないとは言えないが,ほとんどないのではないかと思う.シーラカンスという例外もあるし.

CPS IはCPS IIIのグルタミン結合部位が欠失することによってできたと言われている (JinHong, et al., 1994) .軟骨魚類(本文中ではInvertebrate Fishとあるが,サメで解析してるので多分軟骨魚類のこと)の段階で既にCPS IIIが存在しているので,やはり陸上化に際してCPS IIIがCPS Iになったという方がしっくりくるというか筋が通ってる.

ではこのクララから見つかったCPS I-likeな酵素は何か?

おそらくCPS IIIの遺伝子が複製され,その複製された遺伝子に変異が入り,CPS Iのような機能を偶然獲得したのではないかと考える.

条鰭類が分岐してしばらくしてからゲノムの倍加(全ゲノム重複)が起きたが,ほとんどの遺伝子は失われてしまった.しかしこのCPS IIIは残り,その片方に変異が入り,CPS Iのような働きをもつ遺伝子が生まれてしまったのではないか――というストーリーも考えられる.

ある一種の収斂進化ではないだろうか.

 
 

他の生物種でもこういうのが見つかっていないだろうか,調べていくと同時にきちんと当該論文を読んで参考文献も拾っておきたい…….

1件のコメント

  1. ピンバック:シーラカンスは陸に上がったのか? – Kim Biology and Informatics

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