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外鰓とは何か? – 進化的起源と役割

ウーパールーパーという両生類がいる。英名はアホロートルというのだが、日本では何故か「ウーパールーパー」と名付けられたというかわいそうな(かわいい)生物である。

ウーパールーパー(アホロートル)

さて、動物園や水族館、そしてお父さんお母さん世代の人気者であったウーパールーパーの特徴はなんと言ってもその「外鰓」である。あのビラビラした顔の後ろらへんについているものである。

ふわふわして可愛い印象を与える外鰓(がいさい)であるが、一体どのような役割を担っているのか、そしてその進化的起源はいつまで遡るのか、今回特集してみたいと思う。

外鰓の役割

まず外鰓の役割についてだが、文字通り「外にある鰓(エラ)」のことである。エラというのは、魚などに存在する呼吸器官である。よく観察すると細かいヒダヒダのような構造になっており、血管が張り巡らされているため直接そこから上皮を通じて物質のやり取りを行う。魚はエラを通じて水から酸素などを取り込み、二酸化炭素を排出している。通常、一般的な魚は「内鰓」といって外ではなく中にエラが存在しているが、ウーパールーパーなどのように外にエラが飛び出ているものが存在する。

外鰓も内鰓と基本的に役割は同じであり、呼吸などに使われている

ただ呼吸の効率に関しては大きく異なる。実際に魚を眺めてもらうとわかるが、魚はパクパクと口を動かして水を口からエラへと送り込んでいる。これは筋肉の動きによって能動的に水を動かしているからだ。ただこれには筋肉による酸素の消費という大きな欠点が存在し、取り込んだ酸素の15%くらいはこのエラ呼吸によって消費されてしまう(Webb, 1971)。

対して外鰓の方はどうかというと、ほとんど動かない。ウーパールーパーを見ていてもたまに水換えなどの直後にピクピク動かすくらいで基本的にはじっとしたままである。水の流れなどに頼ってじっと酸素を取り込んでいるのである。

余談だが、ウーパールーパーの外鰓のフサフサは夏場など水温が上昇し、溶存酸素濃度が低下するとよりフサフサになる。フサフサにして表面積を増やすことによって水中から血液に多くの酸素を取り込もうとするのである。

外鰓の進化

さて、この外鰓の進化的な起源はどこまで遡れるのだろうか?

つまり、どこの段階でこの外鰓は獲得されたのだろうか?

まず、我々有羊膜類(鳥類、爬虫類、哺乳類)にはエラは全く存在しない。エラ(鰓弓)が元となる器官はいくつかあるものの、はっきりとエラが存在してそれによって呼吸することは知られていない。

次に少しさかのぼって両生類。先のウーパールーパー(アホロートル)などの有尾類はもちろんのこと、カエルなどの無尾類にも存在することが知られている。下図はユビナガガエルの胚(あかちゃん)の電子顕微鏡写真。

カエルの外鰓。Grosso et al., 2019 よりCC-BY 4.0で引用。
指みたいに見えるものが外鰓。

ただこれはオタマジャクシの成長に伴い消えてしまう。消えると言っても、内鰓へと機能を移行する。

もう少しさかのぼって同じ両生類の無足類、アシナシイモリにおいても大きな外鰓が胚発生中に見られることが知られている。

では魚類、とりわけ硬骨魚類ではどうだろうか。硬骨魚類はシーラカンスやサンマなどのグループも含む「内骨格が硬骨からなるグループ」のことである。大別すると我々陸上脊椎動物に近い肉鰭類と、食卓や水槽によく並ぶ条鰭類に分けられる。まず肉鰭類であるハイギョから見ていこう。

ハイギョはその名の通り肺を持つ魚で、我々陸上脊椎動物に最も近いことが近年のゲノム解析からも明らかにされている(Meyer et al., 2021; Wang et al., 2021)。このハイギョもご覧のように外鰓を持つ

プロトプテルス・アンフィビウス。CC BY-SA 2.5 で引用。

ただ外鰓は種によっては成長に伴い消えてしまうものもあれば、大きくなっても存在し続ける種もある。また、外鰓の本数についても種によりまちまちである。

シーラカンスについては卵胎生であることもあり、かつ繁殖についても不明な点が多いのでよくわかっていない。お腹の中で育った稚魚を見たことはあるが、外鰓はなかったと記憶している。

条鰭類については、基本的に存在しない。しかし、例外的に「古代魚」と呼ばれるような条鰭類と肉鰭類が分岐してから早い段階で分岐した“ポリプテルス”には外鰓が存在する

初期発生の段階から、肺呼吸をし始める段階までの間、下の写真のように1対の外鰓が存在する。

Polypterus delhezi (ポリプテルス・デルヘッジ)の外鰓

これにより、最節約的に考えると、硬骨魚類が出現した段階では既に外鰓は存在したということが考えられる。

さて、それより昔にさかのぼっていくとどうなるのだろうか。

現時点での「最も古い系統群における外鰓」の答えは「軟骨魚類」である。軟骨魚類にはサメやエイ、ギンザメなどが含まれる。

Musa et al., 2018 よりCC-BY 4.0で引用。

上記の図のようにサメ(図はトラザメ)では胚発生中(卵の中で進む成長のこと)にのみ外鰓(図中ではGill filaments)が存在していることが知られている。ただしこの外鰓は両生類やポリプテルスとは異なった形態をしている。解剖学的には内鰓が外に飛び出たものだと言われている(Schoch and Witzmann, 2011)。

Musa et al., 2018 よりCC-BY 4.0で引用。

ご覧のように、発生中に外鰓は内鰓へと移行する。

外鰓の進化と変態

系統樹にすると以下のようにまとめられる。

外鰓を有する脊椎動物の系統樹。
オレンジ色の線が外鰓を有する、あるいは有すると推定される系統。

さて、両生類の「変態」では、水中に住むのに適した姿から一転して陸上に適した姿へと変化する。特にカエルなどは顕著であり、オタマジャクシから手足が生えて陸上をピョコピョコ跳ねるようになる。

イモリやサンショウウオも幼生から成体へと変態するときにエラ(外鰓)が失われるので、「外鰓が失われるのは魚から陸上動物への進化の段階を表しているのだ」と解釈する人もいるだろう。

しかし今回のサメの胚発生の例のように、「魚類においても外鰓が失われて内鰓へと変態する」ことは割と一般的なことであると言えよう。つまり、陸上進出時にその外鰓が失われる様式が獲得されたのではなく、既に魚類の祖先の段階でその様式は存在したのである。

実際、初期の両生類と言われるアカントステガではまだ内鰓を有していたようである(Coates and Clack, 1991)。

外鰓が失われるのと陸上適応というのは、また別の話のようだ。

追記: チョウザメにも外鰓がある?

2021/05/26追記: Twitterで外鰓らしくものがあるチョウザメの写真を確認した。

追記: 両生類の外鰓とハイギョ・ポリプテルスの外鰓は同じ起源ではない?

2021/07/14追記

Schoch and Witzmann (2011) によると、ハイギョやポリプテルスの外鰓と両生類の外鰓が同じ起源であるとの証拠はないとした上で、それぞれが収斂的に同じ形質を獲得したと述べている。

初期の両生類が外鰓ではなく、内鰓を持ち合わせていたことからも、一旦この内鰓による呼吸システムが途絶えてから外鰓へと移行したとの主張である。ユーステノプテロンなども外鰓を持っていたという証拠がないことから、ハイギョなどとは独立して獲得したのではないかと述べている。一応そうした観点からの研究があることをここで触れておく。

参考文献リスト

  • Webb, P. W. (1971). The swimming energetics of trout: II. Oxygen consumption and swimming efficiency. Journal of Experimental Biology55(2), 521-540.
  • Ichikawa, R., & Toyoizumi, R. (2020). Finely tuned ciliary alignment and coordinated beating generate continuous water flow across the external gills in Pleurodeles waltl larvae. Zoomorphology, 1-16.
  • Grosso, J., Baldo, D., Cardozo, D., Kolenc, F., Borteiro, C., de Oliveira, M. I., … & Vera Candioti, F. (2019). Early ontogeny and sequence heterochronies in Leiuperinae frogs (Anura: Leptodactylidae). PloS one14(6), e0218733.
  • Meyer, A., Schloissnig, S., Franchini, P., Du, K., Woltering, J. M., Irisarri, I., … & Schartl, M. (2021). Giant lungfish genome elucidates the conquest of land by vertebrates. Nature590(7845), 284-289.
  • Wang, K., Wang, J., Zhu, C., Yang, L., Ren, Y., Ruan, J., … & Wang, W. (2021). African lungfish genome sheds light on the vertebrate water-to-land transition. Cell184(5), 1362-1376.
  • Musa, S. M., Czachur, M. V., & Shiels, H. A. (2018). Oviparous elasmobranch development inside the egg case in 7 key stages. PloS one13(11), e0206984.
  • Coates, M. I., & Clack, J. A. (1991). Fish-like gills and breathing in the earliest known tetrapod. Nature352(6332), 234-236.
  • Schoch, R. R., & Witzmann, F. (2011). Bystrow’s Paradox–gills, fossils, and the fish‐to‐tetrapod transition. Acta Zoologica92(3), 251-265.