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地球上で一番長い精子を持つ動物は? – 知られざる交尾後の性選択

正月、ダラダラと論文を書くか書かないかしながらテレビを眺めていると、福山雅治と半沢直樹に出ていた役者の人(名前忘れた)が出演する動物に関する番組が放送されていた。

その中で「この鳥はなんとこんなに長い精子を持っていて動物最大!」ってフレコミで紹介していたのだが、実はそんなことないのでこの記事にまとめておくことにした。

私は現在、魚と両生類の陸上適応に関する研究をしているが、その前までは精子の長さの進化についての研究をしていた。だからなんとなくモヤモヤするのだ。

世の中には光る精子も分子生物学的手法によって作られている。
写真はショウジョウバエのもの。 Fatima, R. (2011)

精子の数と質のはなし

一般的な日本人で、義務教育を受けていれば「大量の精子の中でたった1つが卵(卵子)に出会えて受精できる」という話を聞いたことがあるだろう。事実そのとおりで、受精にありつける精子はただ1つである。我々ヒトであっても、虫けらであってもそれは動物で共通である。

ではなぜ1つだけ精子を送り込む、といったようなことをしないのか。

答えは単純で、「受精の確率を上げる」必要があるからである。というより、大量の精子を送り込むことができる個体が子孫をたくさん残すことができたからそういうシステムが現在我々にも受け継がれているのである。

一夫一妻制の繁殖形式を取る動物においても卵まで精子がたどり着ける確率を上げる上で有利になりうるし、多夫一妻……乱婚型の繁殖形式を取る動物であれば、他のオスよりも多くの精子を送り込むことができればより受精の確率が上がるだろう。

こういった「数での勝負」というものが動物においてある程度広く一般的な話である理由としてもう1つ、精子の生産コストが挙げられる。精子は卵と比べて基本的に細胞が小さく、生産にかかるコストは小さい。それ故にオスは大量の精子を作り出すことができるのだ。逆に言えばメスは大きな卵を作らなければならないのでそれだけコストがかかる。故に交尾前にオスを選択するといったような形式が取られることが少なくない。

数の他には「精子の泳ぐ速さ」といったものもある。例えばタンガニーカ湖にいるシクリッドでは精子の泳ぐ速さが速くなるように淘汰圧がかかっていると言われている( Fitzpatrick et al., 2009 )

確かに、精子の泳ぐ速さが速ければそれだけ他の精子よりも卵にありつける確率が高くなる。ではどうすれば精子はより速く泳げるようになるのだろうか?

そこで「精子の長さ」が登場する。スズメ目の鳥であるキンカチョウでは、長い精子を作り出すことで精子の泳ぐ速度を上げていることが知られている( Mossman et al., 2009 )。さらにこのキンカチョウにおいては、精子の長さが長いほど受精の成功確率が上がるということも近年実験から明らかにされている( Bennison et al., 2015 )。ただし、単純に長さが長いほど有利という関係で割り切れるわけではなく、オスとメスの間の複雑な相互作用(具体的には精液にはいろいろな化学物質が含まれるのでそれのこと)によるものもあると言われている。

このように、数で勝負するだけではなく精子の長さといったようないわば「質」のようなもので勝負する世界も実は存在したのだ。

気になる精子の長さ世界一は?

この話題となったキンカチョウの精子の長さの話の前に、我々ヒトの精子の長さをまず抑えておこう。我々ヒトの精子の長さは一般的に60 μm ほどである。キンカチョウの精子の長さは長い個体で実は 80μm 程しかない。

まあヒトよりは長いけど……って具合である。

ただもう少し、広く鳥を見渡してみると300 μm 近い精子を作り出す種、 オオジュリンもいたり( Briskie et al., 1997; Dixon and Birkhead, 1997 )と、まあヒトの5倍……5倍かあ、とはいえ単位は”μm”なので本当に微々たる差といえば微々たる差である。

鳥類で一番長い精子を作るオオジュリン
https://maamarimari.com/ojyurin/

前置きが長くなってしまったが、結論から言うと脊椎動物においてはこの鳥における精子が最も長いだろう。

動物界における真の精子の長さ王者、ショウジョウバエ

おそらく番組制作者は「動物=脊椎動物」みたいなイメージで何気なく言ってしまったのだろうが、無脊椎動物も当然動物に含まれる。では本当に本当、動物界全体を見渡した際に一番長い精子を作り出すのはどの種なのか?

答えは意外にも、ショウジョウバエなのである。

あの夏にどこからともなく湧いてきて鬱陶しいあのショウジョウバエである。あれがとてつもなく長い精子を作り出しているのだ。その長さなんと最大でおよそ6 cm にもなる。ヒトが 60 μm なので ヒトより1,000倍長い精子を作り出している。そう、自分の全長よりはるかに長い精子を作り出しているのだ。やーいお前の精子ハエ未満

この60mmもの長い精子を作り出すショウジョウバエはDrosophila bifurca といい、地球上で最も長い精子を作る。ショウジョウバエでもこいつだけ、というわけではなく、生物系の学生なら一度は聞いたことある「キイロショウジョウバエ」ですら1.8 mmもの長い精子を作り出している。ショウジョウバエ全体においてこの長い精子というものは一般的である(ごく一部の例外を除いて)。

この長い精子の背景には「長い精子が受精に有利」という要因はもちろん、メス側の管状受精嚢という精子を貯蔵しておく貯精嚢が大きく関わってきている。詳しくは以下の記事に書いてあるが、端的に言うと長い袋の中で精子同士位置取りを競わせて、長い精子が受精に有利な場所を得られるというものだ。ただ、精子の長さと数はトレードオフの関係にあるため、長い精子を作る種では一度に出す数が少なくなってしまうことが知られている( Pitnick, 1996 ) 。

ショウジョウバエの精子は非常に興味深い進化をたどっているため、面白いと思うのだが、なんか毛がハエていてふわふわな生き物のほうがみんな好きなのかごく一部の研究者しか研究していない。さみしい。

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おわりに

ショウジョウバエの精子の宣伝をしたいがために長ったらしい記事を書いてしまったが、つまるところショウジョウバエの精子が世界一なのである。

明日からショウジョウバエを見る目が変わるかもしれない。

参考文献リスト

  • Fatima, R. (2011). Drosophila Dynein intermediate chain gene, Dic61B, is required for spermatogenesis. PloS one6(12), e27822.
  • Fitzpatrick, J. L., Montgomerie, R., Desjardins, J. K., Stiver, K. A., Kolm, N., & Balshine, S. (2009). Female promiscuity promotes the evolution of faster sperm in cichlid fishes. Proceedings of the National Academy of Sciences106(4), 1128-1132.
  • Mossman, J., Slate, J., Humphries, S., & Birkhead, T. (2009). Sperm morphology and velocity are genetically codetermined in the zebra finch. Evolution: International Journal of Organic Evolution63(10), 2730-2737.
  • Bennison, C., Hemmings, N., Slate, J., & Birkhead, T. (2015). Long sperm fertilize more eggs in a bird. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences282(1799), 20141897.
  • Briskie, J. V., Montgomerie, R., & Birkhead, T. R. (1997). The evolution of sperm size in birds. Evolution51(3), 937-945.
  • Dixon, A., & Birkhead, T. R. (1997). Reproductive anatomy of the reed bunting: a species which exhibits a high degree of sperm competition through extra-pair copulations. The Condor99(4), 966-969.
  • Pitnick, S. (1996). Investment in testes and the cost of making long sperm in Drosophila. The American Naturalist148(1), 57-80.