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なぜ動物の交尾はバックばかり?~魚の妊娠の起源から陸上四肢動物まで~

WordPressでサイトの作成を行っているのだが,「どのような検索がされたのか」というところを眺めていたところ「 なぜ動物はバックばかり? 」という検索履歴を見てしまった

確かに我々人間からしてみれば他の動物の交尾時における体位多様性の無さに疑問を覚えるのかもしれない(ヒトが異常なだけだが)

例えばそこらへんを飛んでいる鬱陶しいショウジョウバエがたまに二匹連なって飛んでいる姿を見かけることがあるだろう.しかしそのショウジョウバエは決まって雄が雌に覆いかぶさる状態で交尾している.

これに関して言えば当然といえば当然で,もしメスが腹をオス側に向けて交尾しようものなら飛ぶことができない(腹を上にした状態で飛行・姿勢制御ができない)のでもし敵から襲われそうになったとしても逃れることができない.ただ腹と腹を向けあった形で交尾する昆虫もいるため一般的とは言えない.

どのような生物でこの「バックの体勢」が適用されるのだろうか?

ということで今回のテーマは「動物の交尾の体位」とする.

今回は今後基本的に動物というものを脊椎動物として定義しておく.というのも,四肢動物,もしくはそれに近い動物でないと「バック」の定義ができないからだ.

そもそも交尾の起源は?

基本的に私達が食べているような「魚」はメスが産卵し,それに対してオスが放精するといった繁殖形態が取られる.中には体内受精をするものもあり,尻ビレが変化して外部生殖器の役割を果たす.

しかし魚の中でも原始的な魚である「サメ」や「エイ」などの軟骨魚類では体内受精をすることが知られている.腹側についている一対の「クラスパー」と呼ばれる外部生殖器があり,これをメスの体内に突っ込んで精子を注入する.

「バック」の体勢を取らない交尾である.

では交尾の起源はサメなのか? という話だが,実はサメなどの軟骨魚類よりも前に体内受精があったのではないかということが近年化石の調査から判明している.

顎のある魚のうち,板皮類というものがデボン紀に栄えた.国立科学博物館の古代魚の化石のコーナーにデカデカとダンクルオステウスの化石が展示されているので興味がある人は見に行ってみると良い.強力な顎,そして分厚い鎧のような鱗が特徴的な分類群である.

さて,この板皮類というものは顎を持った最初の脊椎動物と言われているが,実はこの時点で体内受精の機構を備え,体内で胚発生を進めていた(妊娠)ということが化石研究によって示唆されている.

このサメにある「クラスパー」が板皮類にも見られ,それがオスで発達し,メスはそれを入れやすいような交尾器を発達させていたようだ(Long, J. A. et al., 2015).これのSupplement Fig. 9を是非見て欲しい.想像図に過ぎないが,なんとなく当時の魚というものがどのような交尾をしていたのかが想像できるだろう.(もし大学に所属していなくてどうしても見たいという人はsci-hubというサービスを使うと良い)

また板皮類の体内において胎児(胚)が確認されている化石も見つかっており(Trinajstic, K. et al., 2015(レビュー)),既に「外部生殖器を使って交尾をし,メスの体内で育てて産む」というのはデボン紀,つまり約4億年前には確立していたのではないかということだ.

という具合に,既に魚の段階で外部生殖器による交尾というものは発達しているが,どうやら「バックの姿勢」はあまり一般的ではないようだ

陸上に進出したあとの交尾の進化

両生類

では魚から進化していった両生類はどうかというとカエルではオスがメスに覆いかぶさる姿勢(いわゆる「バック」の体勢)になり,メスが産卵すると同時にオスが放精するという繁殖形態を取る.

しかし有尾目(イモリなど)ではオスが精子の入ったカプセルのような「精包」と呼ばれるものを総排泄孔から落とし,メスがそれを総排泄孔から取り込む,といった形態を取る.

両生類では「バックの体勢」は一部のみのようだ.

爬虫類

爬虫類の中でも有鱗目の交尾はヘミペニスと呼ばれる一対(つまり2つ!)の外部生殖器をメスの総排泄孔に突っ込んで交尾を行う.

しかしこれを突っ込まなければならないため結局総排泄孔(簡単にいうとお尻の穴)をくっつけるような形を取らなければならない.ということは結局これは腹と腹をくっつけるような……つまり「バックの体勢」ではないということだ.

カナヘビなど,交尾のときに相手の体に噛み付いてガッチリホールドし,それから交尾を行うものもある.草むらなどで見かけたとしても決して殺し合いではないので安心してそっとしておこう.

ただし,カメは「バックの体勢」を取る.しっぽのところに外部生殖器があり,それをメスの総排泄孔にあてがい精子を送る(例えば,Liu, Y. X. et al., 2013).

爬虫類でも全てが「バックの体勢」というわけではなさそうだ.

鳥類

ほとんどの鳥類ではそもそもオスもメスも外部生殖器を持たない

持たないということは突っ込むものもなければ突っ込まれるものもない……ということである.しかし鳥類も我々と同じく有性生殖を行う動物であるので,きちんと交尾行動をしている.

どのようにして交尾をしているかということだが,総排泄孔同士を合わせることによって雄は精子を総排泄孔からメスの総排泄孔に流し込むのである.

そしてこのときオスはメスの上に覆いかぶさる姿勢を取る,つまり「バックの体勢」を取るということだ.

ではなぜこの体勢を取るのかという話だが,単純にひっくり返れない場合が多いからこのような交尾形態が進化したのではないかと考えられる.基本的に鳥類は樹上などを主な生活の場としているため,ひっくり返って交尾することができる場所がない.地面にいればそれだけ地表の生物に襲われるリスクが高まるのでこのような交尾形態が適応的なのではないかと考える.

余談だが一部の水鳥などではオスのペニスが存在することが確認されている.しかしそのペニスがあまり機能的ではないと言われているものもいる(つまりメスの総排泄孔まで届かない)(Brennan, P. L. et al., 2008).

哺乳類

おそらく検索ボックスにこの純粋な疑問を投げかけた人物は「動物=哺乳類」と考えていたのだろう.ここまで鳥類くらいしか「バックの体勢」を取る動物は出てこなかった.つまり動物全体を見渡したとき,あまり「バックの体勢」は一般的ではないようだ.

いろいろ例外が生じるので霊長類及び海獣を除いた「陸上で生活をする哺乳類」 で以下議論を進めよう.

(単孔類を除く)哺乳類ではオスの外部生殖器が発達し,メスの膣に直接精子を送り込む(単孔類では総排泄腔に送り込む).そしてこのとき哺乳類では一般的に「バックの体勢」を取る.

で,なぜそれが適応的かという話であるが,オスの外部生殖器をメスの外部生殖器にあてがうときにどうしても双方下腹部にあるので「正常位」もしくは「バックの体勢」の二択となる.そして動物は基本的に一部を除いて柔らかい部分である腹を上に向けることはしない.つまり通常生活のままの姿勢で行える「バックの体勢」が最適(一番ラク)であるということになる.

というか逆に言えば「正常位」で行うメリットがない.陸上の哺乳類は腹を地面に向けて生活しているので滅多なことがない限り腹を上にする機会はない(犬とかだとマウンティングとかで腹を上にするが).それをあえて交尾のときだけ上にするということは普通リスクを伴う.交尾というものでさえ敵に襲われるリスクが伴うので,基本的に交尾は手早く終わらせる種が多い.

また仰向けになることが困難である種も(特に足の長い種では)多い.想像してみて欲しい.キリンが仰向けなれるだろうか.横たわった鹿にペニスを入れるのと立った状態の鹿にペニスを入れるのとどちらが簡単であるか.

今ある交尾形態を変えるというのもなかなか難しい場合もある.例えば豚の場合は以下のような複雑なペニスを持つ.

豚のペニス(大哺乳類展2の展示を撮影)

これを180度回転させて使おうと思ってもすぐには使えないだろう.

これらの点で「バックの体勢」で交尾を行うことが適応的であるために哺乳類の中で進化的に保存されているのではないかと私は考える.

ヒトは……なんだろね.

最後に

長くなったが,「バックの体勢」が一般的であるのは哺乳類・鳥類くらいな気がする.

そしてそれの意味・理由としては単にその体勢が一番効率的だから,と私は考えている.他の体位ではうまく交尾ができなかったり,危険にさらされたりする可能性があるだろう.

ここに長々といろいろ交尾の体位について書いてきたが,筆者は交尾の体位に関して全くの専門外なのでこの得体の知れない記事をリソースとしてレポートや宿題・自由研究をするのではなく,必ず一次リソース(論文など)を参照し,書くことを努めて欲しい.

あとちょくちょく検索履歴を見ているので面白そうな検索履歴があったらそれをネタに書くかもしれない(例えば今あったものだと「なぜ動物は進化するのか 」).

参考文献

  • Long, J. A., Mark-Kurik, E., Johanson, Z., Lee, M. S., Young, G. C., Min, Z., … & Choo, B. (2015). Copulation in antiarch placoderms and the origin of gnathostome internal fertilization. Nature517(7533), 196.
  • Trinajstic, K., Boisvert, C., Long, J., Maksimenko, A., & Johanson, Z. (2015). Pelvic and reproductive structures in placoderms (stem gnathostomes). Biological Reviews90(2), 467-501.
  • Brennan, P. L., Birkhead, T. R., Zyskowski, K., Van Der Waag, J., & Prum, R. O. (2008). Independent evolutionary reductions of the phallus in basal birds. Journal of Avian Biology39(5), 487-492.
  • Liu, Y. X., Davy, C. M., Shi, H. T., & Murphy, R. W. (2013). Sex in the half-shell: a review of the functions and evolution of courtship behavior in freshwater turtles. Chelonian Conservation and Biology12(1), 84-100.

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