あくあたんは生命ラボの生体管理に変革をもたらすか?

あくあたん工房ドベントカレンダーの記事です。

私はあくあたん工房のメンバーではないのですが、招待されたので書いてみることにしました。

テーマは「あくあたんは生命ラボの生体管理に変革をもたらすか?」。

生命系のラボに属している私がラボにあくあたんを導入したらどうなのかということについて勝手に書きます

 

 

そもそもあくあたんとは?

 

そふらぼともあくあたん工房とも全く関係のない人からするとそもそも「あくあたん」とはなんだ? と思われてしまうので軽く説明をしておくと、京都工芸繊維大学のソフトウエア工学研究室の水野先生が開発している水槽管理ロボット及びそのTwitter botの名称です(先生曰く「あくあたんは概念」)。

アクアリウム監視ロボット

The history of Aqua-tan

 

「複数の水槽を自動的に巡回して給餌してくれる」「自動で減った水を給水してくれる」「水温や室温を計測し、自動的に調節してくれる」「水槽の映像をラボの外からも見ることができる」といったような機能を搭載している、ラズパイを使った管理ロボットです。またTwitterと連携して水槽の様子を逐次写真付きで報告してくれます。このTwitter botの人格が一部の界隈で人気。

 

これはラボの水槽の様子がひと目でわかるページ。かっこいい。

 

生命ラボの現状

 

私は今現在ショウジョウバエのラボに属しているのですが、ショウジョウバエの餌替えとか心底面倒くさいです。また室温で飼っているので壁際とか冬場はすごく温度が下がたり、エアコンの風が当たるところ当たらないところで結構温度差があったりとはっきり言って割とガバガバな管理状況です。

また一般的にショウジョウバエ屋さんは年中明暗周期を12:12時間ではっきり分けてしまっていることが多いのですが、自然界こんなわけないでしょっていう。

 

魚の日照時間による脳内分泌物の変化を研究されている研究室を訪問したことがあるのですが、そちらは流石にラボ内にカプセルのような密室を作り、個々に周期を変えていましたがなんせ大掛かりな実験装置でした。

 

また別のラボでは水槽の数が多くて管理が大変、それでもって(あんまり)学生が世話をしたがらないとかいう状況らしく、なんともまあといった具合です。メダカ腐乱死体になってたし。

 

なんにせよ、趣味でない生物の飼育(特に大量飼育)は本当に大変で面倒くさいのです。

飼育専用にテックを何人も雇うくらいですからね。

 

 

あくあたん導入でどう変わる?

 

あくあたんは水槽管理ロボットですが、今回に限って水槽以外にも幅を広げて考えてみます。

各生命ラボにあくあたんを導入したらどう変わっていくのでしょうか?

 

ショウジョウバエ

 

ショウジョウバエですが、まずは気温、湿度の管理と明暗周期の管理が変わるでしょう。

研究としては均一な条件で飼育されることが好ましいとされているショウジョウバエ(主に医学・基礎生物学ではキイロショウジョウバエが使われます)ですので、部屋に温度や湿度取得モジュールを複数設置し、適切に空調管理が行われているかどうかを監視することができます。

この湿度もハエの調子に結構大きく関わっているらしく、冬場は加湿器を使うなどしているのですが、部屋がなんせ広いのでちゃんと循環しているのか怪しい気がします。

また、モデル生物として使われないキイロショウジョウバエ以外のショウジョウバエでは明暗周期が繁殖の鍵を握っているらしく、12時間サイクルではない明暗周期を設定してやらないといけないのです。しかし、インターネットと繋がっているあくあたんならばその採取地の日照サイクルを取得し、すぐにラボの設備に反映させることができるでしょう。

また、ラボによっては大量の系統を維持することになったり、死んだ個体の数をバイアル(飼育瓶)ごとにカウントしたりすることがあります。

少しあくあたんの機能とは外れてしまいますが、各バイアルにバーコードシールを貼り付け、機械にそれを読み取らせ、手軽に入力を可能にすればこの作業も大幅に効率化が図れると思います。

取得してきた温度湿度などの情報とともに管理できればいきなり大量に死滅したりしたときに、原因解明の手助けとなることでしょう。

 

 

魚や両生類(ゼブラフィッシュやアフリカツメガエル)

 

魚や両生類についても気温調節・明暗周期が同じように重要となってきます。

季節によって住む場所を変えたり、繁殖期が決まっているような魚においては水槽の温度や明暗周期が本来のものとかけ離れてしまうとうまく生育・繁殖ができなかったりします。あくあたんならばライトやエアコン制御をすることで徐々に水温や日照時間を変えるといったような複雑な設定を用いた研究が可能になります。

また両生類などは湿度や気圧によっても行動が変わったりするらしいです。気圧までは調節は難しいですがロガーとしての役割を果たしてくれるでしょう。

また面倒な餌やりはすべて毎日決まった時間にあくあたんがやってくれます。水換えも(これは大幅な拡張が必要となりますが)できなくもないでしょう。

繁殖行動を観察するような場合でもいちいちビデオカメラをセットして回すといったようなことをせずとも「XX水槽に移動」というコマンドを送るだけで水槽の映像が送られてくることはこの上ない便利な機能でしょう。学会や出張でラボを離れていても安心。

ただこのあくあたん、大きな問題点があって、「水に弱い」ということです。

特に海水水槽では使うべきではなく、最悪大きな事故に繋がるため、現場に投入するならば防水仕様のあくあたんが待たれます(自分で作れ)。

 

 

大腸菌

 

大腸菌。もはや真核生物ですらないですが、ここでもあくあたんの温度制御と監視カメラが(たぶん)役に立ちます。

大腸菌……といっても今回は培養に限って話をします。

大腸菌のような生物は倍々……と分裂して増えていくため、初期の立ち上がりからしばらくすると「対数増殖期」という大腸菌が一気に増える時期に達します。しかしこれを過ぎると大腸菌自身が増えすぎて老廃物などが増加し、「静止期」を経て「死滅期」に達してしまいます。こうなるとせっかく増やした大腸菌がどんどん減ってしまうため、できればこの「静止期」に温度を下げて増殖を抑制したいのです。

私はよくそれをするために夜中に振とう機を止めに大学に行っていたのですが、だるいのなんの。

あくあたんにこの作業をやらせれば人間の負担も減り安眠できることでしょう。

温度管理は振とう機の温度を制御させればいいのですが、問題はどのタイミングが最適かどうかをあくあたんが知らないということなのです。ある程度最初から大腸菌の濃度が決まっていたりするならば決まった時間に温度を下げればいいのですが、全てがそうとはいかないでしょう。

我々はいちいちフラスコから大腸菌を吸い出してきて吸光度を図って……ということをしているのですが、あくあたんならばもしかしたらカメラだけで濃度が判断ができるかもしれません。

京都一乗寺のラーメンを見分けられるあくあたんなら朝飯前でしょう(震え声)。

 

植物

 

水槽には水草が入っているので当然植物にも応用可能(暴論)。

温度・明暗周期はもちろんのこと、LEDを揃えてやれば特定波長の光をコンピュータ制御で時間・タイミングなどを変えて照射することが可能になるでしょう。

 

学生

 

あくあたんとコミュニケーションをTwitter上で取っていくうちに自然とD進し、やがて大きな実績をラボにもたらすでしょう。

ラボに来ても実験室にこもって誰からも認知されない……といった寂しいこともあくあたん導入で無くなります。ビーコンによって存在を認知され、Twitter上で温かく出迎えてくれます。教員次第でコアタイムに来ているかどうかのタイムカードにもなってしまいますが。

 

 

まとめ

 

とこんな感じでもはやあくあたんとは呼び難い別の何かも含め勝手に述べてきましたが、普通に製品化したらラボで採用されそうな感じはしています。ただし機械にある程度詳しくないとモジュールの設定や設置などが難しかったりするのでそこは改善が必要となりますね。

主に生命ラボで嬉しいのは

・温度湿度気圧の調節/ロガー

・明暗周期の自動切り替え

・カメラ

この3点でしょう。

どれも既存の製品として個々には存在しているのですが、一元管理ができなかったり、ハエの例のようにインターネットに接続して何か連動させたりといったようなことができる製品は見たことがありません。

もし実際に出てきたらラボロガーとして大きな変革をもたらすことでしょう。

 

誰か起業して作ってください

 

おわり。

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