テロメアの短縮率と種の寿命に相関があるということがスペイン国立がん研究センターのグループによって明らかにされ、2019年7月23日、アメリカの科学雑誌 Proceedings of the National Academy of Sciences (通称:PNAS、プロナス)に論文が掲載された。
Whittemore, Kurt, et al. “Telomere shortening rate predicts species life span.” Proceedings of the National Academy of Sciences 116.30 (2019): 15122-15127. PNASリンク
この研究は老化の原因の解明に繋がるのではないかと期待されている。
テロメアとは?
テロメアとは染色体の末端にくっついている繰り返しの塩基配列、およびそれに関連するタンパク質からなる構造のことを指す。
テロメアの存在意義やその機能については様々なことが言われているが、そのDNA鎖を分解や修復から守るといった役割があると言われている。
テロメアは細胞分裂のたびにどんどん短くなっていき、ある一定以上の短さになるとその細胞は”老化細胞”となり、分裂しなくなる。しかし、がん細胞においてはおよそ90%の細胞においてテロメアを伸長するための酵素、“テロメラーゼ(テロメレース)”が強く発現しており、その伸長を促進していると言われている(NW Kim et al., 1994)。ただがん細胞の場合、修復・伸長よりもはるかに早いペースで細胞分裂が進むため、がん細胞のテロメアは短いということが知られている(O’Sullivan, et al., 2002) 。
がんはあんまり興味ないので深く掘り下げないが、とにもかくにも「老化」や「がん化」に非常に関連していることが知られており、1990年代あたりから精力的に世界中で研究がなされている。
ヒトとマウスではテロメアが短縮する割合が異なる
著者らはこれまでにヒトとマウスのテロメアに着目した研究をしてきた。その中で、ヒトとマウスではテロメアの長さの短縮する速度が異なることに気がついた。
そもそもヒトとマウスではテロメアの塩基配列の長さが違う。ヒトは5 – 15 kb と比較的短いのに対し、マウスでは 50 kb からスタートする。
これだけマウスとヒトではテロメアの長さが違うにも関わらず、ご存知の通り、ヒトはマウスよりも遥かに長生きすることが知られている。
もちろん、それにはカラクリがあるようで、著者らは 一年間にどれだけテロメアが短くなるかというところに着目して調べた。その結果、ヒトでは ~ 70 bp しか短縮しないのに対し、マウスでは 7,000 bp ものDNAが短くなっているということが明らかになった。
そこで「テロメア短縮率が種の寿命を決定しているのではないか」という仮説のもとに、様々な哺乳類・鳥類の寿命およびこのテロメア短縮率との相関を調べた。
研究結果
“初期テロメア長”と寿命には相関なし
最初にその動物種の初期のテロメアの長さと最大・平均寿命の相関を調べた(図1 A-D)。
線形・指数関数の回帰をしたかったのか、よくわからないがまあどのモデルにもうまくフィッティングしているとは言えないひどい様相である。R^2値も到底高いとも言えず、むしろ低すぎる。つまり、無相関である。
“テロメア短縮率”と寿命には相関がある
次に著者らは最大および平均寿命と”テロメア短縮率(一年あたりにどれだけテロメアが短くなっているか)”の相関をみた。
その結果は図1のEとGにわかるように、かなりモデルにフィッティングできているといえよう。つまり、種の寿命とどれだけ年間テロメアが短くなっていくかということには相関がみられる。
回帰線が得られたので、鳥類あるいは哺乳類においてはそれを用いた寿命の予測、あるいはテロメアの短縮率を求めることができそうだ。ただし、極端に寿命が長い種がいたりテロメアの短縮率が極端な種がいたりするとおそらくうまくいかないだろう。
まとめと問題点
今回の研究によって、種によってテロメアの短縮率というものは異なり、さらにその短縮率が種自体の寿命と相関があるということが明らかになった。
単純に面白そうであったし、実際上に紹介した分には面白いものではあったが、この論文にはいささか問題がある。
そもそも「寿命」の定義がすごく曖昧である。
この種間比較において重要なのが、その寿命であるのにおそらくこれは野生下での寿命と飼育環境下での寿命をごっちゃにしている。AnAgeという種の寿命のデータベースが存在するのだが、例えばLarus audouinii という アカハシカモメについて調べてみたところ、wildでのデータしかなかった。
対してマウスやヒトでは詳細なデータが蓄積しているだけあって、飼育環境下や医療の発展に伴うデータを含んでいる可能性がある。それと、不確実な観察による寿命データを一概に扱っていいものなのか、いささか問題があるように感じる。要は寿命の条件がバラバラなのである。
しかし、それを鑑みたとしてもこれだけきれいな回帰線が得られているのならば、ある程度はそういう見込みがありそうだ。一切そういう点にふれられていないのが少し疑問であったが、がん屋さんなのであまり気にしなかったのであろう。
ところどころ微妙な図や解析結果が載っているのでなんか読んでいて違和感を感じることが多かったが、概ね興味深い論文であった。
参考文献リスト
- Whittemore, Kurt, et al. “Telomere shortening rate predicts species life span.” Proceedings of the National Academy of Sciences 116.30 (2019): 15122-15127. PNASリンク
- Kim, Nam W., et al. “Specific association of human telomerase activity with immortal cells and cancer.” Science 266.5193 (1994): 2011-2015.
- O’Sullivan, Jacintha N., et al. “Chromosomal instability in ulcerative colitis is related to telomere shortening.” Nature genetics 32.2 (2002): 280.
当記事は Creative Commons Attribution-NonCommercialNoDerivatives License 4.0 (CC BY-NC-ND) の元、もとの論文より図を引用した。
CC BY-NC-NDのため、本記事には広告の表示を行わない。