今回はデンキウナギの種多様性に関する最新の論文を紹介する。2019年9月10日にNature communicationsに記載されたばかりの論文だ。
C. David de Santana et al.. “Unexpected species diversity in electric eels with a description of the strongest living bioelectricity generator” Nature Communications volume 10, Article number: 4000 (2019)
https://www.nature.com/articles/s41467-019-11690-z
今回著者らは新種のデンキウナギの記載と遺伝子配列による系統解析、および形態的特徴の種間比較、生態などの記載を行っている。
デンキウナギとは?
これまでデンキウナギは一属一種であることが知られていた。つまり我々がいう「デンキウナギ」というものはこれまで世界でただ1種しかない、ということであった。これまで知られていたのはかのリンネが名付けた”E. electricus “のみである。
ちなみに「デンキウナギ目」という括りにした場合、現在少なくとも208種が知られている。熱帯魚としてよく流通している「ブラックゴースト」もこのデンキウナギ目に含まれる。
そして、デンキウナギとはその名の通り、電気を発することができる魚である。
ただ「ウナギ」とついているものの、デンキウナギとウナギはまったくもって近縁ではない。デンキウナギはどちらかというとコイなどに近い。ウナギはかなり古い系統に属する。
電気を作るメカニズムとしてはその筋肉が”発電機”としての役割を果たしていると言われている。
遺伝子レベルで種分化が起きていた
今回著者らはアマゾンの全域から107の標本を集めてきた。そしてそれらのミトコンドリアのCOI 遺伝子(シトクロームオキシダーゼサブユニットI 遺伝子)の配列を得た。それに基づく系統解析から新たにE. voltai とE. varii という2種が存在する、という結論が導き出された。これらの系統解析は統計的に裏付けられている。
また、ミトコンドリアゲノムの他の遺伝子についても同様に解析を行い、さらに核ゲノムの遺伝子についても調べた結果、同様に3種に系統が分かれる、という結果が得られた(図1)。
図1aを見るとわかるが、これらの種のうち、 E. electricus のみが地理的に大きく離れた位置に生息しているということがわかる。
形態レベルではほとんど違いがない
さて、遺伝的には結構はっきりとした分化が起きているということがわかったが、形態的にはどれほどの違いがあったのだろうか。
結論から言うと、形態では見た目での違いはほとんど見られない。流石にこの数百年1種のみであり続けただけあり、目で見ただけでは違いはほぼわからないだろう。
著者らはレントゲン写真まで撮って種間の比較を行った。
本当に僅かな違いだが、何番目の脊椎骨の間に Cleithrum (擬鎖骨?)が存在するかといったところに着目して比較している。
図2下段の外見からは多少の違いが見て取れるだろう。
このデンキウナギらはいつ頃分岐したのか?
ではこれらのデンキウナギらはいつ頃から分岐したのだろうか?
著者らはmtDNA(ミトコンドリアDNA)とnDNA(核DNA)を用いて解析を行った。ソフトウエアはBEAST 2.4 を用いたようだ。比較する配列は先程の系統樹(図1)のものと同じ遺伝子を使用しているようだ。
図3にあるように、これらデンキウナギの3種は中新世の後期に共通祖先から分化していったようだ。およそ8.9から5.2 百万年前である。そして鮮新世において E. electricus (これまで記載されていた種)と E. varii が種分化したというわけだ。これはおよそ 4.7~2.5 百万年前のことである。
住んでいる”水”によって発する電圧が違う?
それらデンキウナギが発する「電圧」を測定したところ、最高で860Vまで達する種が見つかった。それがE. voltai である。
著者らはそれらのデンキウナギが住んでいる「水」に着目した。これらのデンキウナギらは地理的に離れている種もあるからだ。中でも著者らが着目したのが水の「伝導率」である。この水の伝導率が860Vもの高電圧を生み出す1つの要因なのではないかと推察している。(あくまでも1つであり、著者らは他にも土だとか酸素濃度だとか様々な要因からその生息域を推測するモデルを作っている。詳しくは本文参照のこと)
まとめ
この論文では著者らはこれまで1種だとされてきたデンキウナギが実は3種からなるということを発見し、その細かな形態的特徴に加え、生態などを記載した。
また、遺伝子レベルにおいてもはっきりと分化していることがわかった。このように従来まで「形態的特徴」によって「種」というものが多くの生物において決定づけられてきたが、近年のゲノム解析技術によりこの論文のような「新種」の発見の仕方がなされてくるようになった。
デンキウナギはその電圧も種ごとに分化する傾向が見られ(本文Fig. 4参照)、それはその種が生息する環境に適応する形で進化したのではないかと推察している。
著者らは今後、それらデンキウナギのゲノムを解読することにより、より詳しい種分化の解析や、高電圧の放電器官のメカニズム解明に繋がるのではないかと述べている。
今後の著者らの論文に期待である。
参考文献リスト
- C. David de Santana et al.. “Unexpected species diversity in electric eels with a description of the strongest living bioelectricity generator” Nature Communications volume 10, Article number: 4000 (2019)
https://www.nature.com/articles/s41467-019-11690-z
この記事は上記論文より、 Creative Commons Attribution 4.0 International License のもと Fig1, 2, 3 を引用する。