bioRxivに投稿する方法・注意点

かねてより執筆していた論文がプレプリントサーバ「bioRxiv」で公開され、学振DC1の申請書も提出し、ようやく一息ついて記事の更新ができることとなった。

さて今回はそのbioRxivに論文を投稿したという話を少ししようかと。

2020/09/22 追記: SHERPA/RoMEO のサイトが大幅に改定されたため、それに際して紹介文を大幅に改定。

bioRxivとは?

bioRxivというのは、プレプリントサーバ、つまり査読を行う前の段階の原稿を公開するためのサーバである。物理や情報科学、数学などの分野で盛んであったarXivのバイオ版という感じのものである。bioRxivはバイオの中でも医学・臨床の分野を除いたものとなり、医学・臨床の分野は別のmedRxivというところに2019年6月より移行している。bioRxivとmedRxivは両方ともにコールドスプリングハーバー研究所が運営している。

「査読前に出すことによって結果が盗まれるのでは?」

という心配があるかもしれないが、現在、bioRxivなどのプレプリントサーバなどに出すことによって自分らが先に発表したことは証明できることになっている。

「雑誌との二重投稿になるのでは?」

という心配もあるかもしれないが、基本的に最近の多くの雑誌はこのbioRxivなどのプレプリントサーバに投稿することを認めており、そのような場合二重投稿となることはない。しかし一部認めていない雑誌ではそのような場合があるので留意すること(後述)。

というようなところで、今回はbioRxivへの投稿の仕方、そしてついでにORCiDへの登録などもついでに解説しておく。

bioRxivへ投稿する前に

これから投稿する雑誌の選定

bioRxivへ投稿する前にまずこれから投稿する予定がある雑誌の確認を行う。というのも、先程述べたように「プレプリントサーバを認めない」ような雑誌があるからである。そのため、その雑誌の「Guide for authors」などを読むなどして必ずプレプリントサーバへの投稿が認められているかを確認する。

例としてGENE(エルゼビア)という雑誌のGuide for Authorsを読んでみよう。エルゼビア系の雑誌なら似たような感じのところが多いので「Preprint」でページ内検索をかけてやると、

Preprints

Please note that preprints can be shared anywhere at any time, in line with Elsevier’s sharing policy. Sharing your preprints e.g. on a preprint server will not count as prior publication (see ‘Multiple, redundant or concurrent publication‘ for more information).

https://www.elsevier.com/journals/gene/0378-1119/guide-for-authors

となっている。日本語で簡単に言うと、「プレプリントサーバで原稿を公開しても既に投稿済みの原稿としてはカウントしないよ(二重投稿にならないよ)」ということである。よかった。

「いやー、いろんな雑誌のGuide for authors読むのだるい……」って人にはSHERPA/RoMEOをおすすめしたい。

(以降2020/09/22改稿)
以前までは曖昧な色分けでジャーナルへの投稿規定が記されていたが、今日見たところ完全にサイトの構成自体が改められていた。

自分の投稿したいジャーナルをSearchから調べる。先程に引き続き”GENE”というエルゼビアの雑誌を調べてみよう。

SHERPA/RoMEOGENE のページ

こんな感じで出版社と雑誌のタイトルが正しいかを確認し、その下を見ていく。

GENEのページの詳細

一つ一つがタブになっているのでクリックするとプルダウン表示される。それぞれ、下から順に

  • Submitted Version” (投稿時のバージョン)
  • Accepted Version” (査読を終え、アクセプトになったときの原稿)
  • Published Version“(編集部におけるレイアウト等を終えていわゆる「出版」されたバージョン)

に分けられている。

例えばこの場合だと、Submitted Version はCreative Commonsの規定は全くなし(つまりCC-BYなどのめちゃ緩い条件で出してもヨシ)、そしてどこに上げてもよし(arXivやbioRxiv、自分のウェブサイトでもどこでも)である。

次にAccepted Versionだが経路Aと経路Bがあるが、砂時計のアイコンは「禁輸期間」、つまり公開できない期間が決められている。他にもCreative Commonsの制限や、公開場所が決められている。

例えば経路A(Pathway a)だと禁輸期間はないのですぐに公開できるが、公開場所は著者のホームページ(ウェブサイト)、公開のCreative Commons権限はCC-BY-NC-ND (引用元を明確に示し、非営利かつ改変を加えないのであれば自由に使用することができる) である。

経路Bだと公開場所が所属機関のリポジトリとなっている。これは各大学などの研究機関がリポジトリを備えている場合にそちらにアップロードできるというものだ。例えば東京工業大学ではリサーチリポジトリ・T2R2が存在する。ここにアップロードすることは構わないということだ。ただしこちらは禁輸期間が12m(12ヶ月)となっているので提出するタイミングは重要である。

Subject Repository とはその名の通り、「ある特定分野のリポジトリ」のことである。環境科学とか、そういう分野ごとのリポジトリが存在している。

(ちなみに私が今投稿中の雑誌(同じエルゼビア)では、このサイト上ではGENEと同じ規定になっているが、投稿規約を見てみると、arXivなどへのAccepted Versionの投稿は認められている。bioRxivも書かれていないがおそらく問題ないだろう)

その先、Published Version になるとこれはもうカネ次第だ。多くの出版社からはかなり多めのお金を追加で払うことでオープンアクセス、つまり大学などの機関に属さないような人でも見れる条件で公開することができる。私としてはオープンアクセスでオープンサイエンスを推進していきたいという気持ちがあるが、そこは研究資金を獲得してきたボスとの相談である。正直馬鹿にならない金額なので。資金がたんまりある研究者の方はぜひともオープンアクセス、かつCC-BYでの投稿のご検討を!

こうした手順で、プレプリントサーバへの投稿・公開が可能であるかどうかを確認しておく。

ただ過信しすぎず、しっかりとジャーナルの投稿規定(Author’s guide)を読んでおきましょう

共著者への確認

共著者へのbioRxivへの投稿可能かどうかの確認も怠らないように。何かと問題となる場合があるので。

補足: Double-blind peer review 方式の雑誌への投稿

雑誌の査読方式には色々あり、最も一般的なのは Single-blind peer review の方式である。これは査読者の名前は明かさないが投稿者の名前はわかるというものである。しかしこれには問題があり、投稿者の人種・国籍などによって不当な扱いを受ける場合がある。

これを防ぐために Double-blind peer review という方式がある。これは査読者と投稿者の両方の名前を伏せた状態で査読を行うという方式だ。これならば研究グループや人種・国籍などによって不当な差別を受ける心配は減る。

しかしこの Double-blind peer review とプレプリントサーバの相性が悪い。プレプリントサーバは基本的に名前も公開する。そのため、そっくりな論文がbioRxivに上がってるじゃないか! として著者がバレてしまったり、逆にお前パクってんじゃねえのかって因縁をつけられたりする。ただ、こうしたことに雑誌は対応してくれるのでプレプリントサーバなどに上げている場合はその旨をしっかり編集委員の方に伝えなければならない。そのへんもGuide for authors によく書かれているので読むべきである。

ORCiD の登録

ORCiD というものがある。日本の「研究者番号」の国際版、とでも言うべきものであろう。各個人と業績、所属などを結びつけておくためのサービス・規格である。エルゼビアや Springer Nature などが出資しているため、それらの雑誌の投稿の際にも役立つし、何より自分の業績をまとめておくのに役立つ。

こちらからサインインするか、アカウント作成を行う。bioRxivの投稿に必須ではないが、今後様々な手続きや紐付けが便利になるので強く推奨する。DOIみたいな感じなので、結婚などで名前が変わっても個人の存在が変わっていなければ紐付けされたままとなる。

bioRxivは共著者のORCiDも紐付けできるので、共著者のORCiDも確認しておく。

bioRxiv のアカウント登録

次にいよいよbioRxivの方でのアカウント作成を行う。

こちらのページから新規アカウントを作成する。先程ORCiDを作成していた場合、そちらと紐付けすることが可能である。

黄色の丸のところからアカウント作成

このログイン画面は本当に使いづらいので直してほしいのだが、とりあえず自分が 1st Author として投稿したときの手順としては、そのまま Author Area へとログインした。パスワードの変更などの場合はラジオボタンを適宜変更してログインすること。

もしORCiD との紐付けを後で行うのならば、Personal information のところから紐付けを行う。ここで確認もできる。[自分の名前](Author)って書かれている左上のところをクリックするとここに飛べる。

Author Area

正常に登録し、ログインするとこのような画面となる。既に私は1本出しているので1 Paper と出ているが、初めてなら全部0である。

bioRxiv へ論文の投稿

原稿の作成

当たり前だが、原稿がないのに投稿はできない。bioRxivではPDFで受け付けている。Wordファイルから図と併せて変換することもできるが、やはり自分のところで用意してきれいにできているかを確認してから上げるべきである。TeXは非対応なので、自前でコンパイルしてから上げる必要がある。なんにせよ、PDFで予め整えておくのが一番だ。

特別なフォーマットは無いので、本当に雑誌に投稿する直前の形式で上げている人もいれば、ある程度組版してあるものもある。読み手のことを考えるとある程度図を文中に入れたほうがいいよねと個人的には思う。

Supplement Data などもアップロード可能であるので、上げ忘れないように。

原稿の登録

次に論文の投稿フェーズへと入っていく。

右上の「Submit」のところから投稿用のページに飛ぶ。

こんな感じの画面となったら投稿手順が始まっていく。よく読んで入力しておくこと。基本的に難しいところはない。

投稿した原稿の確認

Submit した原稿はコールドスプリングハーバー研究所の方で審査がある。審査と言っても査読ではなく、48時間以内に終わるものである。それが今どのような状態であるかを右上の「Submission History」から見ることができる。

メールからも色々審査の状況が来るので、チェックしておこう。

投稿した論文のRevision

出した論文は基本的に取り下げることはできないが、Revisionを上げることはできる。それはAuthor Area のところからSubmit a Revisionで再提出というか、更新された原稿のアップロードが可能である。

雑誌にAcceptされた原稿も自動的にbioRxivの方からDOIの紐付けを行ってくれるようだが、たまにタイトルなどが変わってうまく行かない場合はまた紐付けが必要である。

さいごに

今回はbioRxivへの投稿の仕方とORCiDなどとの関係について丁寧に解説したつもりである。

今後プレプリントサーバの利用はどんどん広まっていくことが考えられ、利用する機会が増えていくであろう。まだbioRxivを受け入れていない雑誌などもあることから、公開は注意を払って行うことを忘れないようにするべきである。

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