全長3mの巨大ポリプテルス!?-「生きた化石」の全貌に迫る

「生きた化石」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。最近大人気の任天堂ソフト「あつまれどうぶつの森」ではやはりシーラカンスが一時期人気を博していた。

しかし、しかしだ。

生きた化石はまだこの地球上に結構残っているのだ。「あつまれどうぶつの森」の中で絞ったとしてもシーラカンス以外にも存在する。そう、「ポリプテルス・エンドリケリー」や「ガー」だ。6月から釣れるということなので、筆者も急いでSwitchを手に入れようと必死になっている。

ポリプテルス・デルヘッジの幼魚

ポリプテルスはいつからいるの?

あつまれどうぶつの森の話はさておき、なぜポリプテルスが「生きた化石」と呼ばれるかというと、古くからの形質を残していることに由来する。どのくらい古いかというと、Cenomanian (セノマニアン)というおおよそ1億年くらい前、後期白亜紀の地層にポリプテルス目最古の化石が見つかっている(Gayet et al., 2002)。かの恐竜大時代からあまり姿かたちを変えずに生き残っている、まさに「生きた化石」である。

ちなみに大人気の古代魚こと「シーラカンス」はというと、目レベルでデボン紀(4億年くらい前)まで遡って存在してたことが化石からわかっている。つよい。

シーラカンスのなかま(ペルム紀)。アクアマリンふくしまにて撮影

「ポリプテルス目」の化石記録は1億年くらい前だと(現状見つかっている証拠からは)言われているが、実際ポリプテルスの祖先がガーや今生きているほとんどの魚たちと分岐したのはもっともっと前、デボン紀に遡ると言われている。しかし現生のポリプテルスたちの種分化が起きたのは新第三紀(だいたい2300万年前から250万年前)だと推測されている(Near et al., 2012)。

現生のポリプテルス科の魚は、アミメウナギを含み、亜種を除き14種しかいないと言われている(Suzuki et al., 2010)。ポリプテルス科の魚はこの1億年の間にいくつかいたことが知られており、これまでに化石から9属17種が判明している。Polypterus(3種)、†Bartschichthys(2種)、†Inbecetemia(2種)、†Nagaia(1種)、†Saharichthys(1種)、†Sainthilairia(4種)、†Serenoichthys(1種)、†Sudania(2種)、†Bawitius(1種)である(Gayet et al., 2002)。†は絶滅した属を表す。これらの系統関係は出土する化石の状態や数の少なさからほとんどわかっておらず、検討のみにとどまっているようだ(Daget et al., 2001)。つまるところ、ポリプテルス目の系統樹はまだ作成されていない。

さて、この化石種の中でも†Bawitius 属に属するポリプテルスの化石が少し話題を呼んだ。この化石はわずかな骨と鱗(うろこ)しか見つかっていないのだが、その推定されたサイズがでかいのだ(Grandstaff et al., 2012)。

Bawitius bartheli の推定サイズ。
上はセネガルスを推定サイズまで引き伸ばした。下はヒト。
図はCC-BY-NC 4.0で配布

でかい鱗、歯などの形態から推定されたサイズはなんと実に2.5m-3mである! 現生の普通のポリプテルスと比べても5倍近い大きさだ。もしこんなでかいポリプテルスがいたらすごく嬉しい。いつかポリプテルス特注抱き枕を実寸サイズで作りたいくらいだ(#10万円給付金の使い道)。

ポリプテルスの化石はあんまり出ていないようで、これからの発掘に期待、といったところだろうか。

他の魚と比べてポリプテルスは”古い”?

ポリプテルスは現生の条鰭類(じょうきるい)の中では最も祖先的な魚である。さて、この条鰭類という聞き慣れない言葉だが、要は「アゴを得て、硬い骨(硬骨)を得た魚のうち、条鰭を持つ魚」だと捉えてくれれば大体あっている。厳密には胸鰭の特徴だとか云々あるが、それは今回は割愛。

もっと簡単に言うと、「シーラカンス」や「ハイギョ」、そして我々「ヒト」などの陸上脊椎動物(クジラなどもこの場合含んで考えてほしい)を除いた「アゴがあって硬骨を持つ魚」である。つまり、だいたいの魚は条鰭類だ

参照: 系統樹の見方をわかりやすく解説

上の図を見てほしい。ピンクで囲ってあるところが「硬骨魚類」と呼ばれるグループ。我々陸上脊椎動物を含む。その中でも肉鰭類(にくきるい)に我々は属する。図でいうと、条鰭類は硬骨魚類のうち、肉鰭類に属さない方の魚たちだ。

そしてポリプテルスはその条鰭類の中でも最も祖先的であることが遺伝子などを用いた研究から明らかにされている(Cavin, 2008; Hughes et al., 2018)。

どんな古代の形質を持つの?

ポリプテルスが受け継ぐ「生きた化石」の特徴は色々あるが、多くの研究者が着目しているのは、

  • 原始的な肺
  • ガノイン鱗

の2つである。

原始的な肺

ポリプテルスやガーは肉鰭類と分かれる以前からあったとされる「原始的な肺」を未だに受け継いでいる。もし飼育している人でポリプテルスが死んでしまった時はぜひ解剖してほしいのだが、慎重に解剖すれば空気が入った「袋」を見つけることができるだろう。余談だが、ガーのほうがなんか表面がブツブツしているというか、一見するとより「肺」らしい形質をしている。

ポリプテルスやガーはこの肺を用いて空気呼吸をすることができ、エラのみに頼らず呼吸できる。例えば湿地や小さな水たまりなど、低酸素・高二酸化炭素の環境において水中から酸素を取り込むことができなくなったとしても、肺を通じて取り込むことが可能だ。ポリプテルスは野外観察において、水たまり間をぺたぺた歩いて移動することが知られており(Du et al., 2016)、この時に肺呼吸をしているのだろう。

ガーより先、真骨魚類などではこれをもう肺として用いることはせずに「うきぶくろ」として使っている。ちなみにシーラカンスも肺の痕跡があるが、脂が詰まっており肺として機能していない。

参考: シーラカンスは陸に上がったのか?

この原始的な肺は我々が持っている肺と共通の遺伝的基盤によって形成されることが最近明らかにされた(Tatsumi et al., 2016)。

Tatsumi et al., 2016 Fig. 5 より引用。CC-BY 4.0

我々は左右2つに分かれる肺を持っており、真骨魚類などの「うきぶくろ」では一般的に1つのみの袋を持つ。対してポリプテルスは我々陸上脊椎動物と同じような左右2つに分かれる肺を有していることが形態的観察から明らかにされた。また、この肺の形成に関わる3つの遺伝子の発現パターンが陸上脊椎動物のそれと似たようなパターンを示すことからも、ポリプテルスら条鰭類と我々の共通祖先の段階で肺の獲得が起きたのではないかということが示唆される。

ちなみにポリプテルスは口で空気呼吸をするのではなく、頭の上に空いている「Spiracle」という穴で空気を吸う。これは陸上に上がると耳の穴に転用された。

参考: 魚が陸に上がるとき 〜最初は口で空気を吸わなかった?〜

ガノイン鱗

ガノイン鱗(りん)はポリプテルスやガーなどに特徴的な鱗(うろこ)であり、「めちゃくちゃ硬い」のが最大の特徴である。もうどこで見たか忘れたが、ドリルでポリプテルスのガノイン鱗に穴を空けようとしたが空かなかったという動画を見たことがある。そのくらい硬い。

この硬さというものが何によって生み出されているのか、という話だが我々の歯の「エナメル質」と同じ成分でできている(Sasagawa et al., 2013)。そしてガーなどのガノイン鱗を持たない真骨魚類はこのエナメル質の形成に関わる遺伝子がなくなっていることがゲノム解析から判明している(Qu et al., 2015)。というか、我々の歯のエナメル質と同じ機構でポリプテルスやガーのガノイン鱗が形成されている可能性があるということだ。言ってしまえば、「歯を身体にまとった魚」だろうか。強い。解剖の時は大きく育った個体は文字通り「歯」が立たない。

おわりに

でかいポリプテルスの絵を載せたかっただけで記事を書き始めたが、色々とポリプテルスについて語りたいことがあったので勢いで書いてしまった。化石は正直分野外なのであまり詳しくないが、かなり懸命に調べたものの、やっぱりそもそもの化石数が少ないことからも文献も少なかった。

観賞魚としてはマニア向けとして人気が高いが、最近は俳優の中村倫也さんがポリプテルス好きとかで認知度が徐々に高まってきているようだ。

研究対象としてもマニアックで、他の種に比べ、あんまり研究を見かけない。ただNatureに2014年に掲載されたポリプテルスを陸上で歩かせる論文だけは世界的にニュースサイトに取り上げられていた(Standen et al., 2014)ので知っている人もいるだろう。

参考: ポリプテルスを陸上で飼育する方法

あと、ぜひポリプテルスの化石を国内で見られる場所があったら教えてほしいです。

参考文献リスト

  • Gayet, M., Meunier, F. J., & Werner, C. (2002). Diversification in Polypteriformes and special comparison with the Lepisosteiformes. Palaeontology45(2), 361-376.
  • Near, T. J., Eytan, R. I., Dornburg, A., Kuhn, K. L., Moore, J. A., Davis, M. P., … & Smith, W. L. (2012). Resolution of ray-finned fish phylogeny and timing of diversification. Proceedings of the National Academy of Sciences109(34), 13698-13703.
  • Suzuki, D., Brandley, M. C., & Tokita, M. (2010). The mitochondrial phylogeny of an ancient lineage of ray-finned fishes (Polypteridae) with implications for the evolution of body elongation, pelvic fin loss, and craniofacial morphology in Osteichthyes. BMC evolutionary biology10(1), 21.
  • Daget, J., Gayet, M., Meunier, F. J., & Sire, J. Y. (2001). Major discoveries on the dermal skeleton of fossil and recent polypteriforms: a review. Fish and Fisheries2(2), 113-124.
  • Grandstaff, B. S., Smith, J. B., Lamanna, M. C., Lacovara, K. J., & Abdel-Ghani, M. S. (2012). Bawitius, gen. nov., a giant polypterid (Osteichthyes, Actinopterygii) from the Upper Cretaceous Bahariya Formation of Egypt. Journal of Vertebrate Paleontology32(1), 17-26.
  • Cavin, L. (2008). Palaeobiogeography of cretaceous bony fishes (Actinistia, Dipnoi and Actinopterygii). Geological Society, London, Special Publications295(1), 165-183.
  • Hughes, L. C., Ortí, G., Huang, Y., Sun, Y., Baldwin, C. C., Thompson, A. W., … & Bellora, N. (2018). Comprehensive phylogeny of ray-finned fishes (Actinopterygii) based on transcriptomic and genomic data. Proceedings of the National Academy of Sciences115(24), 6249-6254.
  • Du, T. Y., Larsson, H. C. E., & Standen, E. M. (2016). Observations of terrestrial locomotion in wild Polypterus senegalus from Lake Albert, Uganda. African journal of aquatic science41(1), 67-71.
  • Tatsumi, N., Kobayashi, R., Yano, T., Noda, M., Fujimura, K., Okada, N., & Okabe, M. (2016). Molecular developmental mechanism in polypterid fish provides insight into the origin of vertebrate lungs. Scientific reports6, 30580.
  • Sasagawa, I., Ishiyama, M., Yokosuka, H., & Mikami, M. (2013). Teeth and ganoid scales in Polypterus and Lepisosteus, the basic actinopterygian fish: an approach to understand the origin of the tooth enamel. Journal of Oral Biosciences55(2), 76-84.
  • Qu, Q., Haitina, T., Zhu, M., & Ahlberg, P. E. (2015). New genomic and fossil data illuminate the origin of enamel. Nature526(7571), 108-111.

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